「恐怖のオバさんライダー」(2016年09月20日)

バリ島でレンタカーの運転を頼んだバリ人の知人は、イブイブの二輪ライダーほど運転し
ていて怖いものはない、と語っていた。路上での動きは傍若無人であり、おまけに次の瞬
間にどういう動きを行うかという予測がまったく不能だというのがその理由で、要するに
自分がいつ加害者にされるかわからない、という意味での恐怖なのだそうだ。

しばらく前にソーシャルメディアを賑わせた投稿に、似たような内容のものがあった。隣
人のイブイブがオートバイで走るとき、右折も左折も車線変更も、ウインカーなしにいき
なり曲がる。あるときあわや引っ掛けそうになった四輪運転者が、ついに文句を言った。
するとそのイブイブは胸を張って返事した。
「あなたねえ、こりゃメティック(オートマチックをインドネシア人はmetikと省略する)
なのよ。右に曲がろうと、左に曲がろうと、自動的にウインカーが点灯するでしょうが・
・・」


首都警察交通局の2015年データでは、交通事故に関わった四輪二輪女性運転者は1,
621人で、死者87人、重傷525人、軽傷1,009人となっている。その中で女性
二輪車ライダーの増加は凄まじいものがあり、前年から49.5%上昇した。
2016年は8月までで102人の女性が死亡している。女性の交通事故は、交通法規の
無知あるいは無視に由来するものが大半を占めている。

首都警察交通局副局長は女性運転者に対する交通安全教育が急務であると語った。9月2
2日の交通安全の日に警察は国民に対する交通安全教育を盛り上げる計画であり、セミナ
ーや討論会で意識を高めてもらうほかに、若年層に対してコミックなどで啓蒙をはかるこ
とにしている。その中でも、女性運転者はひとつの焦点になっている由。


女性運転者のコミュニティ「クイーンライダーズ」発起人は女性運転者の特徴について、
安全運転に関する知識が極めて低いと指摘する。「車両の初歩的機能チェックから運転時
の服装や靴に至るまで、安全さに対する配慮が優先されていません。情報化がますます進
んでいる中でのこのような姿勢は、イロニーとしか言いようがないですね。」

24〜40歳の女性運転者5百人に対して行われたサーベイで得られた結果がそれだった。
その5百人はほとんどが中流経済階層(ミドルクラス)で学歴も高く、さまざまな職業に
別れている。そして運転する目的については8割が収入を得るためと答えた。運送業とい
う直接的なものよりも、たとえば家内工業で作った商品を配達するといった間接的なもの
がその大半だ。かの女たちは毎日1〜4時間、公道の上を走っている。

公道の上で車両を運転するということが、社会生活の一部になっている。公私の弁別に疎
い慣習と観念で営まれている社会生活そのものが、公道上での危険に対する認識を甘いも
のにしていると言えるだろう。自己への厳しさよりも他者への甘えが優先されたら、危険
この上もない状況が発生する。自分が無理な運転をしたとき、他車がよけたり譲ってくれ
るという甘えが事故を生む。イブイブライダーの恐怖は、女性の社会に対する甘えが作り
出しているように思えてならない。