「スラバヤ・スー(12)」(2017年01月09日)

三日三晩続いた砲爆撃で多くの市民が死傷したが、即死した者のほうが幸いだったのかも
しれない。医療従事者は完全に不足しており、おまけに医薬品もが欠乏状態にあった。ス
ラバヤに国内他地域から入って来る医薬品はほとんどない。重傷者は死の谷底へ転げ落ち
て行く以外に、たどるべき道が何もなかったのだ。

タントリは被害者たちに何かをしてあげたいと思ったが、医薬品のない医療従事者の手伝
いではたいしたことができそうにないと考え、貧困庶民の住宅地区へ励ましの慰問を行お
うと考え、単身で貧困地区へ出向いた。

ごみごみと建て込んだ家並みの中の一軒で、家の表に中年男性がひとり呆けたように座り
込んでいた。近寄って来るタントリに向けて顔を上げようともしない。
タントリは挨拶してから、どうしたのかと尋ねた。その男性は虚ろな目でしばらくタント
リを見つめた後、家の中へとタントリを誘った。

薄暗い家の中には、三つの遺体が横たわっており、それを取り巻いて女たちが涙を流して
いた。かれは言う。「息子たちは、独立のために生命を捧げた。残っているのは女ばかり
だ。」
三つの遺体は14歳くらいから17歳くらいまでの少年で、腕に紅白の腕章を巻いていた。
かれらは住宅地区からあまり遠くない防衛線に着いていたが、砲爆撃が防衛線を粉砕した
のだ。
慰めの言葉以外にタントリがその一家にしてあげられることは何もなかった。意気消沈し
てタントリが叛乱ラジオ局に戻って来ると、マランから戻って来たドクトルSがタントリ
を待っていた。


「あなたは早急にスラバヤを去らなければならない。スラバヤの南方60キロほど離れた
バギルという小さい町にあるラジオ局にあなたを移す準備を整えてある。あなたは今夜、
兵隊の護衛でバギルへ移動する。バギルは今のところ、まだ安全だ。ただし、いつまでか
ということは誰にもわからないが・・・」

「わたしはスラバヤを離れたくないわ。わたしの身の安全なんてくそくらえよ。わたしと
同じ民族が何という非道なことをしているのか・・・。大勢のインドネシア人が苦しんで
いるというのに、わたしが安全を求めるなんて、恥ずかしくて会わせる顔もありません。」

「そのことをあまり気に掛け過ぎないように。誠実なイギリス人は何千人もいるし、他の
国々にもあなたと同じ気持ちを抱いている賢明なのひとがたくさんいる。非難の洪水が世
界中から流れ込んで来ている。わたしの言葉は残酷に聞こえるかもしれないが、長い目で
見るならスラバヤへの砲爆撃はインドネシア民族にとって重要な教訓を与えるものとなる
だろう。これまで世界の目はこの地域にほとんど向けられることもなく、この地域に存在
する問題にも関心が向けられることがなかった。ところが今、インドネシアは国際社会の
関心の的になっているのだ。」

スラバヤを去る日をもう一日先にしてほしい、とタントリは医師に懇請した。最終的に、
医師のほうが折れた。[ 続く ]