「スラバヤ・スー(16)」(2017年01月13日)

タントリは怒りを抑えて、かれらに協力する姿勢を示した。タントリの放送がマランでな
い場所から発信されているのがわかれば、バギルの同僚たちは何が起こったかを知るにち
がいない。そして救出の対策を講じてくれるだろう。

一週間が経過したが、変化は何も起こらなかった。その夜、放送を終えたタントリは外へ
出て風に当たりながら夜空を眺めていた。すると突然藪の中からふたりの青年が現れた。
「こわがらないで。われわれはあなたの仲間です。バギルの。山からかなり下の場所にト
ラックを隠してあります。今すぐに山を下りれば、あなたがいなくなったことにかれらが
気付くころには、われわれとの間にかなりの距離が開いているでしょう。」

タントリはその青年の顔を思い出した。ふたりはタントリを連れ戻すために、かれらにと
ってたいへん危険なこの場所に潜入して来たのだ。三人がいる場所は司令部の建物から見
えない位置にある。

三人は道なき山の傾斜をどんどんと下って行った。かなり下りた場所にトラックが一台隠
されていた。トラックはすぐにバギルに向かって走り出した。


翌日はタントリの声がバギルから発信された。数日後、タントリ宛てに手紙が来た。トレ
テスの指揮官少佐からの手紙には、「あなたの気付かないうちに、あなたは再びトレテス
のこの司令部に戻ってきていることでしょう。」と書かれている。タントリは自分の警戒
心を強める以外に方法はなさそうだと思った。

ところが、そのトレテス黒シャツ盗賊団がタントリに対して行動を起こす前に、共和国国
防大臣がかれらを一網打尽にした。そして少佐は狂人であると宣告され、施設内に幽閉さ
れてしまった。


タントリがバギルに戻ってから数週間が経過したころ、オランダ軍用機がバギルの上空を
旋回するようになった。叛乱ラジオ局のスタジオを見つけ出そうとしているにちがいない。
ブントモから届いた指令は、早急にバギルの放送局を閉鎖してモジョクルト奥の山地に移
転せよとなっていた。発信機を分解してトラックに載せなければならない。作業は夜間に
行われ、闇の中をトラックはモジョクルトに向かった。

翌朝、かれらはモジョクルトからもっと長い道のりを山地に向かわなければならない。起
伏が激しく岩だらけの坂道をトラックで走るのは、あまりにも無謀だ。一行は機材を馬に
乗せて山地を目指した。

やっと到着した場所は、山奥の寒村。自然環境は黒シャツ盗賊団の本拠地と大差ない。み
んなはそれぞれの住居をまず確保して居心地の良いものにし、一段落してから放送局作り
を開始した。ところが発信機を組み立てていた技術者が思いがけないことを言い出した。
部品が壊れているというのだ。どうやら山道を上り下りしているとき、何かにぶつけたら
しい。電波が発信できなければ、ラジオ局は何もできない。[ 続く ]