「反ホウクス・反ヘイトスピーチ運動」(2017年01月16日)

インターネットソーシャルメディアが普及したおかげで、インドネシア社会は虚偽情報化
社会の道を歩み始めている。

自己が優れた存在であるという自己評価を持たんがために、世の中に騒ぎを引き起こそう
とする人間がおり、更に経済的メリットや政治的メリットを得んがために世の中に騒ぎを
引き起こそうとする人間も少なくない。

根も葉もない虚偽情報、曲解や歪んだ視点からの見解、根拠のない流言飛語、ヘイトスピ
ーチなどを流して世情を混乱させ、あるいは世人を操縦し、自己の力に酔いしれる者、世
情の混乱から経済的メリットを得る者、社会的ステータスにメリットを得る者、政争にお
ける攻防戦にメリットを得る者と、その種の手段を講じようとする人間はインドネシアに
数多い。中でも、現政権を揺さぶりたい野党や反政府勢力にとって、虚偽情報やヘイトス
ピーチで世の中に騒ぎが起こり、現政権の信用を失墜させることができれば、それは素晴
らしい武器になる。


インターネットが今ほど普及していなかった昔は、SMSでせいぜい村や部落のような狭
いエリアに騒ぎを起こすことしかできなかったインドネシア人たちは、今や瞬時に全国的
な騒ぎを引き起こすことができる武器を手に入れてしまった。政権を揺さぶるほど大きな
効果を持つ武器を。

2016年後半ごろから、ジョコ・ウィドド政権に対する攻撃がインターネット上で強ま
りはじめ、政権転覆計画という反逆行為へと進んで行った。そこに虚偽情報やヘイトスピ
ーチで社会を操り、現政権失墜をはかろうとする動きが付随したのは言うまでもなく、そ
の状況を重く見た政府は敏感な反応を示し、インターネットで虚偽の情報を流し、あるい
はSARA感情を刺激して憎悪を煽ろうとする者に対する刑法犯罪者化、流れた虚偽情報
に対する修正や適正な対抗情報の宣伝体制、国民社会に反虚偽情報運動を導入する、など
といった対策を矢継ぎ早に進めた。それらをまとめたものがanti-hoax & anti-ujaran 
kebencian運動だ。英語のhoaxというのは他人を偽り惑わすためにつく嘘という意味で、
ここ数ヵ月間インドネシアの流行語になっている。ujaran kebencianは英語のhate 
speechのインドネシア語訳。

だがフェイスブックやツイッターなどに書き込まれた個人の文章が複数の人間によってリ
レーされ、ネズミ算式にクリックページが増加すれば、警察のサイバーパトロール部門が
発信者を検挙するにも時間がかかるようになる。警察の努力は成果を上げているものの、
ホウクスやヘイトスピーチはむしろ増加傾向にあるように見える。


そんな中で、ホウクス兼ヘイトスピーチはついに戦争を誘発した。戦争とは言っても「村
戦争」つまり部落住民間のタウランなのだが。

2017年1月7日夕方、西ジャワ州インドラマユ県イリル村の15歳と17歳のふたり
が乗ったオートバイが自損事故を起こし、ふたりはロサランの警察病院に運ばれて救急治
療を受けたが、15歳の少年は10日午前4時に死亡した。するとイリル村住民のひとり
がフェイスブックに、かれはチュルッ村の連中になぶり殺しされたのだ、という根も葉も
ない書き込みをした。

その結果、その日のうちにイリル村・パレアンギラン村・ブラッ村の千人を超える住民が
集まって、チュルッ村ボジョンブロックに殴り込みをかけた。ボジョンブロック住民は命
からがら逃げ出したから、人的被害はあまりなかったものの、千人を超える暴徒は空き家
になった家屋を打ち壊したために30軒の家屋が重度の損壊、109軒の家屋が軽度の損
壊という被害を蒙った。

千人を超える暴徒がひとつの部落に刃物を手にしてなだれ込むありさまは、戦争という言
葉で形容されてもおかしくないように思われる。