「スラバヤ・スー(18)」(2017年01月17日)

まずタントリが国際赤十字に所属する看護婦になる。そのために白衣と帽子を用意し、赤
十字のシンボルマークがついた腕章を腕に巻く。次いで、偽造の身分証明書や関連書類を
作製する。タントリの顔写真にモリー・マクタヴィッシュという名前の入った英国のパス
ポートや、英国赤十字がモリ―にあてた任務指示書など、その状況を裏付けるための書類
が偽造される。

モジョクルトにある私立病院から救急車が借出され、ボディは塗り替えられて国際赤十字
という文字とシンボルマークが大書される。戦闘部隊の指揮をしている青年が運転手にな
り、車内にはタントリの他にもうふたりの青年が乗り組む。

ひとりは全身に血だらけの包帯を巻かれて患者になり、もうひとりは医師に扮して白衣と
医療カバンで身支度をする。

イギリス軍の検問ポストを通過するときに、タントリは一世一代の芝居を打たなければな
らない。通過できれば、そのままラジオ機材を隠してある空き家に急行し、必要な機材を
座席の下に隠して、運転手とタントリだけがふたたび検問を通ってスラバヤの外へ逃げ出
すというシナリオだ。患者と医師役のふたりは市内の病院で下りたような形にするが、ふ
たりは街道を避けて水田地帯の中を市内からモジョクルトへ徒歩で戻って来る。

タントリはその作戦計画がなかなかのものであることを認めた。しかしその当時、東ジャ
ワに国際赤十字など影も形も存在していなかった。その事実を知っている者が検問ポスト
にいれば、疑惑を抱くのは疑いもない。ところがこのチームリーダーの青年は気楽に言っ
た。
「検問ポストで歩哨に立っているイギリス兵に、そんなことに関心を持つ人間がいるはず
もない。かれらは赤十字という文字とマークを頭から信用し、かれらと同じ言葉を流暢に
話す白人女性がいることで、疑念も警戒心も失ってしまうだろう。あなたなら絶対に大丈
夫だ。」


数日後、国際赤十字所属看護婦モリー・マクタヴィッシュに扮するための準備が完了した。
このミッションインポシブルチームはモジョクルトに移動して待機する。そしていよいよ
作戦決行の日がやってきた。

国際赤十字の文字とシンボルマークを大書した救急車がやってきた。イギリス軍の軍服を
着たチームリーダーが運転席に乗り込む。タントリは助手席に。車の後部には白衣の医師
と全身包帯づくめの患者が乗り込んだ。患者の包帯にはあちこち鮮血がにじみ出ている。
それを見てタントリが息を呑むと、患者は元気な声で言った。「これは鶏の血だから、怖
がらなくてもいいよ。」

救急車が出発しようとしたとき、戦闘部隊員のひとりが「卵だ。」と言ってタントリに丸
いものを渡した。その感触はとても鶏卵と思えない。「これは何?」
手りゅう弾だと言われてタントリは飛び上がった。
「これは話が違うわ。わたしは戦闘作戦に参加する気はありません。武器弾薬など一切積
まれていないことがはっきりしないかぎり、わたしは絶対に行きません。」

強情を張るタントリに他の者たちが折れた。車両内に隠されていたトミーガンとピストル
数丁をかれらが取り出したとき、タントリは開いた口がふさがらなかった。とはいえ、か
れらも最悪の事態を予想してのことだったにちがいない。[ 続く ]