「スラバヤ・スー(24)」(2017年01月25日)

面会時間はあっという間に過ぎて、スカルノに接したほとんどの女性と同様に、タントリ
もかれの人物像に魅せられてしまった。インドネシアの伝統衣装があなたにはとてもよく
似合うし、あなたは着付けがとても上手だ、と小柄な体躯のタントリを褒めることを忘れ
ないスカルノに、かれがどうしてあれほど女性の人気を集めているのか、タントリはその
秘密をうかがい知った思いをした。

ホテルに戻ろうとするタントリに大統領は、徒歩で帰ることを許さなかった。それほど遠
い距離でもないというのに、大統領公用車でホテルまで送り届けるよう大統領は副官に命
じた。


ある日、タントリはアミール・シャリフディン国防大臣に呼ばれた。初対面のふたりはさ
まざまな話を交わした。日本軍政時代に大臣は憲兵隊に捕らえられ、処刑される寸前に至
った。そのときスカルノが民衆に愛されているアミールを殺せば民衆の怨恨を買って叛乱
が起こるかもしれないという理由で助命をはかったため、処罰が終身刑に変更されたとい
うことがあった。

憲兵隊に捕らえられていたという体験はふたりの共通項であり、その点で話が合ったのは
もちろんだ。

だが、ふたりの息が合ったのは、それだけのためではない。ブンアミールはブントモと同
じように小柄だったが、性格はブントモを陽とすればブンアミールは陰の傾向が強く、他
人の後ろで目立たないようにバックアップするのを好んだ。人一倍誠実さにあふれている
かれの性格をタントリは稀有のものと感じ、自分と同質の人間に対する仲間意識を踏まえ
た友情が育まれたようだ。


さまざまな会話のあと、ブンアミールはタントリに尋ねた。
「あなたはオランダ人とオーストラリア人を見分けることができますか?」
「誰でもできますよ。オーストラリア人の英語はたいへん特徴がありますから。どうして
そんなことを尋ねるのですか?」
「こういうことなのです。」

ブンアミールの話はこんなものだった。
スラバヤの市街区域から少し離れた水田の中で、イギリス軍の軍服を着ている将校がひと
り、共和国軍に捕まった。本人はイギリス軍将校だが、オーストラリア人だと名乗ってい
る。モジョクルトの人民保安軍司令官は、その男がNICAのスパイではないかと疑って
いる。

その男はモジョクルトの病院に収容されているが、かれが本当にオーストラリア人なのか、
あるいはオランダ人なのか、それを早急に判定して適切な対応を取らなければ、攻撃的な
民兵組織が何をするかわからない。もし本当にオーストラリア人であれば、共和国はかれ
を保護しなければならないので、望ましくない事態が起こるのをできるかぎり防がなけれ
ばならない。

タントリはその見極めをつけ、もしオーストラリア人であれば安全をはかるためにヨグヤ
カルタに移送してほしい。[ 続く ]