「スラバヤ・スー(25)」(2017年01月26日)

モジョクルトのその病院には、白人がもうひとり収容されている。モジョクルト上空で撃
墜されたイギリス軍用機の操縦士だ。この男にも会って、身元をはっきりさせてほしい。
それが国防大臣からタントリへの任務要請だった。タントリはその任務をふたつ返事で引
き受けた。

数日後、準備を整えたタントリはモジョクルトに向けて出発した。人民保安軍のひとりの
大佐がこの任務の相棒であり、同時にかの女のガードマンだ。ヨグヤカルタからモジョク
ルトに向かう街道はひどい道路状況で、おまけに地域地域をおさえている武装民兵組織が
通行者をチェックする。共和国国防大臣の出した任務命令書に加えて、ふたりの身分証明
書がチェックされた。人民保安軍大佐だとはいえ、階級章ひとつで通してはくれない。と
もかく、たいへん時間がかかったが、トラブルは起こらずにモジョクルトに到着した。
タントリはモジョクルトの病院で車から下り、大佐はモジョクルトの人民保安軍司令部に
向かった。

タントリは院長に用件を話して、収容されている白人患者の面会許可を得た。オーストラ
リア人を自称している患者の部屋を訪ねると、部屋には患者のほかに人民保安軍のインド
ネシア人将校がひとりいて、談笑していた。ベッドに座っていた患者は、入って来たタン
トリを目にして跳びあがった。
「おお、こんなところに国際赤十字の白人看護婦がいるのか!?」
タントリはかれが興奮してベッドから降りないように、手で制する。
「あなたはオランダ人?」
かれの問いに対してタントリは、自分が何者であり、看護婦ではないということを説明し
た。腕に巻いた紅白の腕章は、赤十字のマークでないことも。
「これはインドネシア共和国独立闘争のシンボルなのです。」とタントリは言う。自分は
インドネシア共和国のために働いている人間であり、あなたの状態を調べるよう命じられ
てやってきたのだ、と。

その白人はオーストラリアのカルグ―リーが故郷で、オーストラリアからAFNEI軍に
派遣されたブルース・アンダーソンという名の少尉だった。スラバヤ市境界地帯での哨戒
パトロールに一個分隊を率いて出動したが、道に迷ってしまい、気が付いたときは市区域
からかなり外の水田地帯にいた。そして竹槍と鉈を持った共和国側の住民グループに襲撃
され、分隊は全滅した。少尉は負傷したが、かろうじて深い水路の中に身を隠して死を免
れた。ところが、その闘いのあとにやってきた共和国人民保安軍に発見されて捕らえられ、
モジョクルトの病院に収容された。[ 続く ]