「スラバヤ・スー(28)」(2017年01月31日)

司令官はいきなりスタッフに向かって話しかけ、数回の応答を経て結論を語った。
「わしはあんたたちと一緒にモジョクルトの病院へ行こう。アンダーソン少尉がそういう
扱いをされるにふさわしい人間かどうかをこの目で確かめたい。ヨグヤにかれを連れて行
くかどうかは、その上でのことだ。誠実な男であるなら、大臣の意向に従おう。」


病院長は夜中に大佐とタントリが司令官を連れて戻って来たのを見て、あっけにとられた。
命令厳守で畏怖されている司令官が、イギリス軍少尉に会うためにわざわざ病院にやって
くるなんて。

みんなはすぐにアンダーソン少尉の病室に入った。司令官はかれに、インドネシアに来て
からの戦歴をすべて話してくれ、と依頼した。アンダーソンは自分の体験を物語り始めた。
話の途中で司令官は何度か質問をはさんだ。そしてアンダーソンが話終えたとき、司令官
は眉を開いた。
「ヤングマン、出発の用意をしたまえ。あんたは大佐とクトゥッ・タントリと一緒にヨグ
ヤカルタへ移るのだ。」

そのあと、みんなは院長室に移ってコーヒーを振舞われた。
「アンダーソンは良い男だが、将校としてはナイーブすぎるな。」と司令官は印象を語っ
た。そして、ヨグヤまでかれを無事に送り届けるために、マディウンまでわしも同行しよ
う、と言い出した。マディウンを過ぎれば、もう安全は保証されたも同然だそうだ。

ヨグヤカルタまでの道程に変事は何も起こらず、無事に到着してからアンダーソンは大佐
の家に客人として迎えられ、大佐の妹の介護を受けることになった。


それから10日後、今度はダニエルズを迎えに行く任務がタントリに与えられた。タント
リの相棒になったのは人民保安軍諜報部門の少佐で、ふたりは順調にモジョクルトに到着
し、具合が回復して来たダニエルズを連れてヨグヤへの帰途をたどった。

ところがソロの手前の町で検問に当たっていた人民保安軍部隊指揮官はクトゥッ・タント
リの名前を聞いたこともなく、相棒の諜報部門少佐にも面識がなく、一行を部隊本部に連
行した。部隊本部にはふたりのどちらかを知っている者がたくさんいて、手続はあっとい
う間に終了し、一行は再びヨグヤへの道を進むことになったが、そこで時間を取られたこ
とと相まって、移動中にダニエルズの容態が悪化してしまった。ダニエルズは砲弾の破片
が心臓の近くに入ったままになっており、複雑な手術が必要なためにモジョクルトの病院
はできるだけの処置を行っただけで、治療が完璧になされたわけではなかったのだ。この
ダニエルズこそ、早急に本国に送り返さなければならない状態にあったのである。

一行はヨグヤに着くとすぐに大佐の家にダニエルズを届け、ブンアミールに結果を報告し
た。大臣はその成果にたいそう満足した。[ 続く ]