「人間性が犯罪予防の弱点(前)」(2017年02月06日)

首都圏に巣くう強盗団は数多い。何しろ、インドネシア共和国全土の半分以上の金がこの
地域に集まっているのだから。


いずこの国とも同様に、インドネシアの強盗団も親分がいて幹部がおり、三下がいる。た
だ暴力団と違うのは、少数精鋭主義の傾向を持っているということだろう。低レベルの悪
人の寄せ集めは長続きしない。仲間のひとりが警察に簡単に捕まってあらいざらい自供す
れば、組織の全員がすぐに捕まってしまうからだ。

とはいえ、警察の組織力に勝てる強盗団はなかなかいないわけで、結局かれらはシャバと
ムショを出たり入ったりすることになるのが宿命になっている。


インドネシアの刑務所は社会更生院と命名され、懲役労働は非人道的であるとして否定さ
れている。ところがそこで更生する犯罪者は稀有のもので、ほとんどの犯罪者は種々の犯
罪活動の先輩たちから犯罪手口を学んで刑期を終え、もっと優れた犯罪者となって世の中
に復帰して来るのである。社会更生院は優れた犯罪者を養成する高等教育機関になってい
るのだ。インドネシア社会が持つイロニーのひとつがそれであるのは間違いない。

少数精鋭主義なのだから、親分自らも一味の犯行に参加し、おまけに最も積極的に暴力を
ふるい、被害者を死に至らしめる。そういう悪の権化となり、誰よりも強くて度胸があり、
情け容赦のないところを手下に示すことによって、手下たちが心服する、という心理メカ
ニズムがそこに働いているようだ。勝負に勝つことが自己存在の価値と正当性の具現であ
るという心理的刷り込みを抱えているインドネシア人にとって、強くて度胸があることは
世間から尊敬を集める必須条件だ。そして親分をないがしろにすれば自分の命に関わると
して手下たちが恐れることで、組織の規律統制が順当に機能するようになる。


2017年1月3日13時ごろ、ブカシ市ジャティワルナ地区のガソリンスタンドで、従
業員のひとりが3億ルピアの売上金を銀行に納めるため、オートバイで職場を出た。とこ
ろが、決まった時刻に決まった作業を行う傾向のきわめて強い保守性満点の国民性と、さ
らに自分にそんなことは起こらないだろうという楽天主義が相まって、いつも同じスタイ
ルで大金を抱えて移動しているその45歳の従業員の往く手に、強盗団一味が待ち構えて
いたのである。

およそ15分後、ラヤハンカム通りを走っている従業員のオートバイに見知らぬ二台のオ
ートバイが近寄って来た。そして賊は従業員のオートバイを蹴倒し、かれの身体に刃物で
数回斬りつけ、3億ルピアの現金が詰め込まれたバッグを奪って逃走した。

現場は交通繁華な場所だったにもかかわらず、大勢の通行者が犯行を目撃しながらも怖れ
て事件をただ遠巻きにして見守るばかりだった。[ 続く ]