「非テロリストもイスラム国家を望む」(2017年02月24日)

都知事選に全国政党の本部が咬みこんでそうそうたる対立候補を押し立て、都民から高い
評価を得ている非ムスリム現職都知事の足をすくうためにイスラム勢力の威勢を誇示しよ
うと動いたとき、イスラム界に神風が吹き始めた。

パンチャシラという国家原理によってマイノリティの非ムスリムと圧倒的マジョリティの
ムスリムが同等の位置に置かれている現実にフラストレーションを抱えているイスラム界
指導者がいないわけでは決してないのだ。そのようなイスラム界指導層にしてみれば、パ
ンチャシラはイスラム原理を抑圧していると見えているはずで、かれらはパンチャシラを
総否定するのでなければ少なくともその中味を変容させることを政治目標に掲げているに
違いなく、現政権をイスラム原理により近い勢力に入れ替えることは目標達成にかれらが
たどる選択肢のひとつとなる。そこに現政権を倒壊させようとうごめいている者たちの姿
が見え隠れしている。


イスラム原理主義の旗を振り、国家主権を尊重せず、自らがイスラム擁護の最前線に立つ
ことを連綿と続けて来たもっとも戦闘的な民間組織FPI(イスラム守護戦線)もそのひ
とつだ。全国に7百万人の会員を持つと豪語するこの団体も、神風に煽られてイスラムパ
ワー突出の動きを演じ始めた。

出る杭が打たれるのは人の世の常であり、以前から独善的攻撃的な原理主義の押し付けを
行っていたかれらを嫌うムスリム中道派も数多い。ましてや、インドネシアムスリムの基
本原理はイスラムヌサンタラなのであり、アラブ型原理主義に塗りつぶされることを決し
て善しとはしていないのである。

FPIリーダーの大イマムであるリジク・シハブが国是のパンチャシラを侮辱し、同時に
建国の父スカルノの名誉を棄損したとして、パンチャシラ生みの親とされている初代大統
領スカルノの娘ラフマワティ・スカルノプトリが警察に訴えたのをはじめ、東カリマンタ
ン州バリッパパンでもリジク・シハブが民兵機構を侮辱しまたヘイトスピーチを行ったと
して、地元宗教団体・青年団体・アダッ保護団体・民兵機構など28団体がかれを警察に
告訴した。バリ州でも、FPI地元団体役員が警察に訴えられているし、バンドンではF
PIと民間団体「低層社会運動」が立ち回りを演じている。


去る12月に発行された新紙幣のデザインが共産主義のシンボルマークである鎌とハンマ
ーを含んでいることをリジク・シハブがネット上で追及している。インドネシア銀行は単
なる贋札防止用のレクトヴェルソ印刷技術のひとつであり、鎌とハンマーのロゴではない
と説明しているが、レクトヴェルソのモデルが複数ある中で、どうして鎌とハンマーに似
たものが選択されたのか、とリジクは食い下がっている。

ジョコ・ウィドド現政権を倒壊させるための企みが顕著になりはじめたのは、都知事選に
からめてイスラム平和大集会が行われた時期に重なる。現大統領は華人系である、中国寄
りの政治が目に余る、このままではわが国は中国に呑み込まれてしまう。そういったネッ
ト上にあふれるホウクスを後押しするかのように、現政権は共産主義を容認しているとい
うリジクの主張が上の紙幣デザインに関する議論から読み取れる。

パンチャシラの筆頭項目にあるのは有神性である。無神論者はインドネシア国民になれな
い。共産主義が無神論であることを知らないひとはいるまい。リジクの主張を推し進めて
行けば、現政権は容共であり、国家原理に違背している国賊だということになる。

そこだけを見て、リジクが現在のパンチャシラを擁護している、と見るのは当たらないだ
ろう。パンチャシラを死守しようとの一念に燃えている人物が、それにからめてヘイトス
ピーチなどする必要がないではあるまいか。