「母語(2)」(2017年03月02日)

たとえばバリ州では小学校でバリ語の会話と読み書きを教えており、最近小学校4〜6年
生1,072人を集めてバリ島の短い説話をバリ語で書かせる大会が開催された。バリ島
内の随所にある地名表示はアルファベットとバリ文字が併記されているものが多く、州政
府の力の入れようをうかがわせている。

他の州でもその地方語が文字を持っていれば、なるべく多数の地元民に対してその文字に
触れさせるようなことを行っており、特に町中での地名表示はそういうことをするのにも
ってこいの媒体であるようだ。


政府教育文化省は2016年に全国で2,348地区の調査を行い、それらの地域にあっ
た646地方語の使用状況を測定している。ユネスコが2001年に発表した絶滅の危機
にある言語世界アトラスによれば、インドネシアの地方語640のうち15は既に絶滅し、
139は絶滅直前として報告された。

東南アジア研究院は中央統計庁の2010年国民センサスから、国民が日常生活言語とし
て使っている地方語の状況を抽出した。使用者人口の多いトップ3は、ジャワ語6,82
1万人、インドネシア語4,269万人、スンダ語3,101万人となっている。インド
ネシア語はもちろん地方語ではない。ここで出ているインドネシア語の意味はインドネシ
ア語を母語としているということのようだ。つまり、他の地方語が話せない人口というこ
とになる。このインドネシア語を母語としている人口がもっとも多いのがジャカルタだろ
う。もちろんジャカルタに移住して来た地方出身者の中には、種族後=地方語を使い続け
ているひとも多々見受けられるものの、地方に住んでいれば自然とバイリンガルになるひ
とたちがジャカルタに住むと生活環境の差で単一言語になってしまう傾向も顕著なようだ。

ジャカルタは全国各種族のるつぼだから、生活環境は共通語であるインドネシア語がメイ
ンになっている。バリに住んでバリ語に終日触れているひととは生活環境に違いがあると
いうことにちがいない。

一方、ジャワ語の6千8百万人もスンダ語の3千1百万人もみんなバイリンガル者として
インドネシア語を使っている。だからこの統計はモノリンガルやマルチリンガルを問わな
い、母語に関するものであるという理解で見なければ、おかしな誤解が生じる可能性があ
る。

国民人口の中での母語別話者人口比を描くなら、次のようになる。
ジャワ語31.87%、インドネシア語19.95%、スンダ語14.49%、ムラユ語
6.83%、マドゥラ語3.64%、その他23.22%

上に出現しているムラユ語とは、ムラユ語系の方言を意味しているようだ。もちろんイン
ドネシア語もそのひとつと考えられるが、インドネシア語は別建てにされているため、こ
こで出てくるムラユ語の中味はわかりづらい。ともあれ、それは人口比であり大きい人口
を擁する種族が上位に来るのは当然だろう。しかしそれではクオリティが見えてこない。
[ 続く ]