「スラバヤ・スー(54)」(2017年03月09日)

ラジオにも出演し、またオーストラリア民主党議員の奥方たちの集まりでも講演した。女
性団体からの招きには極力応じるようにした。


シドニー大学でも、学生であふれんばかりの講堂で話をした。学生たちの質問はたいへん
知的なもので、みんなが本当の話を聞きたがった。つまり、隣国のインドネシアに関する
情報がオーストラリアにはあまりにも少なく、そしてその多くが歪められた話だったこと
をそれは示しているにちがいない。そのような情報操作を行うのは、オランダ人以外にあ
りえない。

学生の間から、インドネシア独立にわれわれも手を貸したい、という声があがった。われ
われが何をすればよいのかを教えてください、と別の学生が言う。タントリは学生たちに
提案した。「この町のオランダ領事館に対して、インドネシアでの軍事攻勢に抗議するデ
モを行えばどうでしょうか。またオーストラリア首相に電報を打ち、国連でインドネシア
問題を審議にかけるよう求めることも。」

学生たちはさっそくデモ実行委員会を編成し、タントリのアパートで計画を練り上げた。
タントリはスローガンを大書した紙をたくさん作り、デモ隊はそれを掲げて整然と行進す
るように教えた。騒動を起こせばデモの効果はなくなる。

学生たちはオランダ領事宛てに抗議文を書いて封筒に入れ、領事に会見を求めてそれを渡
すか、もしまったく無視されたなら、領事館の中に投げ込むよう、作戦を立てた。タント
リにデモの指揮を要請する声もあったが、タントリは百パーセント学生が自ら行うことに
このデモの意義があるのだとかれらを説得した。


ところが新聞記者がデモの計画を嗅ぎつけて、デモ行進の段取りやタイムスケジュールを
聞き出し、それを新聞で公表した。オランダ領事館は市内中心部のビルの上階にあり、デ
モ隊が来る直前に扉をロックして学生たちを無視する方針を決めた。

領事館の入っているビル周辺は領事館からの要請に応じて警官隊が警備に就き、たくさん
の一般市民も見物に集まって、時ならぬお祭り騒ぎだ。タントリはある新聞社の編集長と
一緒に状況視察にやってきていた。

整然と行進する数百人のデモ隊がビルの近くまで来たとき、警官隊がデモ隊の先頭に立ち
はだかってデモ隊を押し返そうとした。一方、デモ隊の最後尾は行進を続ける。間に挟ま
れたデモ参加者は、潰されてはたまらないから逃れようとする。たちまち整然たる隊列は
乱れに乱れた。

警官隊がデモ隊リーダーを捕らえようとして、こん棒をふるい始める。学生たちは抗議と
非難の叫び声をあげ、路上の石やゴミが宙を飛び始めた。見物人の間から大人たちが学生
の側に付いて警官隊に向かっていく。路上で大乱闘が噴き上がった。領事館職員のオラン
ダ人が窓からバケツで水をデモ隊にかけようとしたが、水は警官隊を濡らすほうが多かっ
た。[ 続く ]