「非所有格のNya」(2017年03月21日) ライター: インドネシア語文法学者、リー・チャルリー ソース: 2012年1月6日付けコンパス紙 "Nya yang Tidak Posesif" われわれは「Terima kasih atas infonya.」というメッセージをしばしば受け取る。その 文章はごく普通のものに思われるし、発信者の意図も十分に理解できるため、われわれは きっとその文章をあれこれ問い返すことはしないだろう。それを「Terima kasih atas infomu.」や「Terima kasih atas info Anda.」という文章に訂正したがるひとも、ひと りふたりいる。前接語の-nyaというのは、その前にある単語infoが第三者に由来すること を示しているのだが、実際には対話の相手であるメッセージ送り先者から来たものなのだ から、そう書くほうがぴったりするのだ、とかれらは言う。 直接会話するときにも、われわれは対話者にしばしば「Di mana istrinya?」と尋ねる。 話題にしているのは対話者の妻であって、第三者の妻ではない。対話の相手はわれわれの 意図を十分に理解し、自分の妻の居場所を返事して来る。本当は「Di mana istrimu?」と 尋ねなければならないのだろうか?なぜなら、われわれが尋ねているのは第三者の妻の居 場所でなく、対話相手の妻なのだから。 次のようなケースにおける前接語の-nyaが指しているのは誰/何なのだろうか? sebenarnya dia baik のsebenarnya bukannya berhenti, ia malah lari のbukannya tadinya saya mau pergi のtadinya panasnya bukan main のpanasnya それらが第三者の所有格を示すものとして機能していないのは明らかだ。 それらの例文から前接語-nyaを取り去ったら、どうなるだろうか?前接語-nyaがある場合 とない場合で、意味は違ってくるだろうか? 次のような別の文章における前接語-nyaはどのような機能を果たしているのだろうか? besarnya seukuran bola pingpong larinya kencang manisnya mesti dikurangi インドネシア語の前接語-nyaは、三人称単数所有格を示すだけではなく、「Terima kasih atas infonya.」のように限定機能をも持っている。英語だと、この問題はもっとわかり やすくなる。「Thank you for the information,」と「Thank you for your information. 」のふたつの文章の意味は同じだ。限定詞の特徴を持つ冠詞「the」は普通インドネシア 語に訳されるとき、「itu」「tersebut」「-nya」が使われる。 直接の会話の中でわれわれが三人称所有格代名詞を二人称の相手に対して使うのは、そこ で述べられている対象者を特別扱いしているのである。その話題の中には対話相手の夫と その妻という別々の人間が存在していることをわれわれが意識する結果、「Di mana istrimu?」でなくて「Di mana istrinya?」という表現がなされるのである。つまり、 「あなたの妻の役割に就いているひとはどこにいるのか?」ということだ。 上述のsebenarnya, bukannya, tadinya, panasnya における前接語-nyaの機能は、非動詞 基語benar, bukan, tadi, panas を名詞化すると同時に、文も会話も関係なく、ひとつの 議論の中での特定項目として位置付ける機能をも果たしている。sebenarnyaの場合は特別 で、se-nyaがパッケージになっている。 二つ目のグループ、besarnya, larinya, manisnya の前接語-nyaは、名詞でない基語を名 詞化する働きをしている。名詞あるいは名詞化された語が主語になるという規則を思い出 すなら、この機能はたいへん重要なものであることがわかる。