「マドゥラ人の決闘」(2017年04月21日)

誇り高きマドゥラ人には、チャロッ(carok)という風習がある。誇りや体面が傷つけられ
たとき、マドゥラ人は刃物を手にして果たし合いを行うのである。使われる刃物はたいて
いの場合、鎌だ。

傷つけられた誇りや体面を回復するための果たし合いだから、互いに卑怯なふるまいは避
けようとする。家族主義の色濃いインドネシア文化はマドゥラ人も例外でないから、個人
間のトラブルでも一家一族の問題となり、その解決方法としてチャロッが提案されること
は少なくない。


現代社会でこのような果たし合いは違法行為であり、また野蛮であるという見解も広がっ
ているものの、昔ながらのこのチャロッという風習に騎士道の美を感じるひとびともまだ
たくさん存在している。

インドネシアでは世間一般にマドゥラ人を、「やり過ぎる」「極端な」「闘争的」で「怖
い」種族と見る傾向が強い。チャロッの風習がその一因を作っているのは間違いないとこ
ろだろう。


サンパン県クタパン郡東クタパン村ナポランラオッ部落で隣り合った家に住むひとびとが
17年4月8日15時ごろに集団チャロッを繰り広げ、3人が死亡し、ひとりが重傷を負
うという事件が発生した。

鎌を持っての果たし合いも大時代的な事件だが、その原因となったのが呪殺という、これ
も現代では考えにくい動機であったことが世の注目を集めている。


その日14時半ごろ、一軒の家で主人のサラトンさんが亡くなった。2年越しの腹が膨れ
る病で寝込んでいた果ての死だ。息子のサリマンさん45歳とモハンマッさん35歳が、
父親の死は仲の悪い隣家のムストファ55歳とシティナ57歳の夫婦が呪いをかけたから
ではないかと疑った。

それを問いただすためにふたりの息子は隣家を訪れ、夫婦に疑念をぶつけた。
「俺たちゃ呪術なんかできねえよ。」と隣家の主は否定するが、息子たちは思い込んだ一
念で聞く耳を持たない。押し問答のあげく、息子たちは堪忍袋の緒を切った。

「どうしても認めねえと言うのか?こうなったらチャロッだ!」とサリマンさんが叫ぶ。
しかしこのケースはムストファさんの方が体面を傷つけられているわけで、「チャロッ」
を叫ぶのは筋から言えばかれのほうだろう。

「ようし、受けて立とうじゃねえか。しかし男ふたりと男女では片手落ちだ。男をひとり
連れてくるから、待ってろ。」
こうしてムストファさんは身内の男をひとり連れて来た。四人の男がそろったところで、
ついに四本の鎌がきらめいた。シティナさんは双方に対して「やめろ、やめろ」と言い続
けている。

そして四人の格闘が部落の路上で開始された。ひとりが胸をえぐられて路上に倒れる。ひ
とりが腕を斬り落とされる。ムストファさんが倒されたとき、シティナさんは夢中で斬り
合いの中に飛び込んで行った。刃がシティナさんを襲う。

サリマンさん、ムストファさん、シティナさんの三つの身体が路上に転がって動かない。
ムハンマッさんは全身傷だらけで現場を後にし、ムストファさんの身内の男も軽傷のまま
現場から逃走した。

警察が現場に駆け付けたとき、集団チャロッは終わっていた。警察は三つの遺体を回収し、
ムハンマッさんを自宅から病院に運んだ。警察はムストファさんの身内の男を追っている。