「無謀な路上検問突破(後)」(2017年04月26日)

2017年4月18日、東ルブッリンゴ―のカルヤバクティ通りに住むスリニさん50歳
の一家は、親族の結婚式に出るため、一台の乗用車に8人が乗って南スマトラ州ムシラワ
ス県ムアラブリティに向かった。

一族の男性ガトッさん29歳がプレート番号BG1488ONのホンダシティで7人を迎
えに回り、みんなを乗せて街道に出た。助手席には35歳の男性、後部座席の一番左には
31歳の女性が3歳の息子を抱いて座り、6歳の息子はもうひとりの女性が膝に乗せ、ス
リニさんがその右に座り、右の窓際には39歳の女性が座った。


ファッマワティ通りまで来たとき、警察の路上検問が行われているのが見えた。ガトッさ
んが緊張したのが、すぐに全員に分かった。かれが明かしたところによれば、かれは無免
許であり、おまけにそのホンダシティはSTNK(自動車番号証明書)の更新をしていな
いのだそうだ。路上検問を受ければ、ムアラブリティへは行けなくなる。

ガトッさんは検問を強行突破することにした。スピードを上げると、一番右の車線を突っ
切る。警察員が停止を命じるが、ガトッさんは無視した。しばらく走って後ろを見ると、
検問場所から2台の警察オートバイと1台の警察車が飛び出してきた。

こうなった以上、振り切るしかすべはない。警察に追跡されていることを知った後部座席
の女性たちが口々にガトッさんに停車するよう求めるが、かれは聞く耳を持たない。

捕まってたまるか、と赤信号を突っ切ると、追跡者はついに発砲して来た。車内の全員が
すくみあがる。そのすくみはガトッさんをも襲ったようだ。かれは諦めたのか、アクセル
を踏む足を緩め、ためらいがちな様子でスピードを徐々に落とし、ヨッスダルソ通りのプ
リオッ交差点で左端に車を寄せて停まった。


「車の外へ出ろ」というマイクの声が聞こえるが、怖くなった車内の全員がどう動いてよ
いのかわからない。そのうちに、警察員のひとりが車の横へ出てきて銃口を向けた。「出
て来い。」と命令されても、出て行けば撃たれるかもしれない。恐怖は更に募る。

そうしてSS1V2がついに火を噴いたのだ。車内をパニックが包んだ。

スリニさんは銃弾を胸と腹と腿に受けて、虫の息になっている。31歳の女性は背中と左
腕に銃弾を受けた。3歳の息子は弾丸が頭をかすっただけで済み、6歳の子は無傷だった
が様子を見るために病院に収容された。39歳の女性は左腕に銃弾が当たった。運転席と
助手席の男性ふたりも、銃弾を受けた。

この事件ではひとりが死亡し、6人が銃創などで病院に収容されている。被害者のひとり
の話では、銃撃した警察員は乗用車の窓ガラスを銃床で割って中を確認したあと、「なん
で停車しなかったのか?」と怒鳴ったそうだ。そして普通の市民が怪我をしているのを見
ても、救急処置にかかろうとしなかった。警察員たちは被害者が「早く手当をして。」と
叫ぶ声を聞いて、やっと動き始めたと述べている。


中にいたのが凶悪犯罪者やテロリストだったなら、この事件がたいした問題にされること
はなかっただろうが、中にいたのが一般市民の一家だったことで、警察の人権蹂躙問題へ
と発展した。

警察員が発砲することに関して、国家警察長官規則が存在する。2009年国警長官規則
第8号には、犯罪事件が発生して容疑者と思われる者が逃走したとき、警察員はその者を
銃撃するのでなく、あくまでも追跡して捕らえなければならないと定められている。それ
が基本的人権に即した警察捜査員の行動だという、従来の考え方への是正が行われている
のである。

もちろん、警察捜査員が携帯する銃器はただの飾りではない。攻撃的な使用は上のように
禁じられたが、犯人/容疑者が抵抗して捜査員の身に危険が及んだ時にだけ、銃器の使用
が認められるのである。

国家警察はK警部補を含む数名のこの事件に関わった警察員を更に取り調べた上で法的措
置を執ることにしている。[ 完 ]