「デモクラシートラップ(後)」(2017年05月18日) しかしながら、それら一連の国会議員と大統領を選ぶ総選挙が証明しているように、勝者 はイスラム政党でなかったのである。総選挙で勝ちを収めたのは1999年がPDI−P 党、2004年ゴルカル党、2009年デモクラッ党、2014年は再度PDI−P党だ った。同じように、2004年以来の三回の大統領選挙でも、勝利を収めた正副大統領は イスラム政党が担ぎ出したカップルだったのでなく、勝ったのはパンチャシラ基盤の政党 が推薦したひとびとだった。 特定地方の首長選挙は、それとはまた状況を異にしている。2005年に地方首長選挙が 開始されて以来、地方の中には地元出身者だけに立候補を認めるところが出現した。そう ではあっても、パンチャシラ基盤であれ宗教基盤であれ立候補カップルに対する複数政党 の合同支持が作られたことから、デモクラシートラップの出現には至らなかった。 上述のような状況は、2018年地方首長選挙と2019年の大統領選挙で変化するのだ ろうか?その問いに答えるために、2017年ジャカルタ都知事選の内容を分析して見よ う。 まず第一に、現職のバスキ都知事カップルを降した勢力がまるごとイスラム勢力でなかっ たことを認めなければならない。メインパワーは、パンチャシラ基盤のグリンドラ党と2 014年大統領選でジョコ・ウィドド+ユスフ・カラ組に敗れたプラボウォ・スビヤント を支持する選挙民たちだったのだ。 イスラム政治パワーはイスラム基盤のPKS党が担った。更に、2016年11月初めか ら2017年4月19日の都知事選第二ラウンド投票まで、何度も繰り返された大衆行動 の支持者たちがそこに加わった。 だから政治イデオロギー・オリエンテーション・目的面から見るなら、アニス+サンディ アガ組を勝利に導いた勢力というのは、奇妙な仲間関係(strange bed-fellows)の者たち だったと言える。それぞれのパワーはイデオロギー的に見て団結の不可能な勢力であり、 その団結はバスキファクターによってのみ成立しえたように思われるのだ。バスキファク ターとは、キリスト教徒で華人系であるというダブルマイノリティに加えて、宗教冒涜容 疑という三重苦に直面していたという当時の状況を指している。しかしながら一方では、 バスキ+ジャロッ・サイフル・ヒダヤッ組に投票した者のマジョリティもイスラム教徒だ った。ジャカルタ首都特別区の投票有権者の85%がムスリムだったという事実から、そ の結論を導き出すことができる。 2017年ジャカルタ都知事選挙の分析と背景を考慮するなら、その結果を他地域での2 018年首長選挙や2019年大統領選挙に敷衍していくのは無理があるように思われる のである。2018年に首長選挙を実施する他地域の背景や2019年大統領選の際の全 国レベルの状況は、今回の都知事選とはまた異なるファクターに包まれているにちがいな いのだから。 そうだからこそ、2018年の地方首長選挙や2019年大統領選挙にデモクラシートラ ップが起こると予想するのは困難なのだ。バスキの身に降りかかった宗教冒涜事件のよう なファクターがなくなり、政治プラグマティズムとオポチュニズムに満ちた政界のビヘイ ビアが横行しているかぎり、インドネシアにとってデモクラシートラップはきっと無縁の ものとなるのではあるまいか。[ 完 ]