「賢明なる人間」(2017年05月19日)

ライター: コンパス紙記者、著述家、アフマッ・アリフ
ソース: 2017年5月3日付けコンパス紙 "Manusia Bijak"

自然界の頂点捕食者はすべて素晴らしい肉体条件を有している。トラは柔軟な肉体と素早
い脚を持ち、ナイフのように鋭い牙と爪がある。サメの体形と滑らかな皮は水中での屈伸
のための完璧まデザインだ。

その完璧な体形は数百万年という進化の過程の中で、自然淘汰に鍛えられ、適応して来た
ものなのだ。かれらに比べたら、人間の肉体はとても脆弱だ。マックスプランク進化生物
学研究所のカタルジナ・ボゼックが2014年に行った調査は、人類の進化が筋力を弱め
る方向に向かったことを確認している。肉体の弱まりは脳の発達と逆比例関係にあった。
筋力が8分の1に退化するとき、脳は4倍のスピードで発達した。

現生人類ホモサピエンスとチンパンジーなど他のサル科動物との主な違いは脳へのエネル
ギー供給の量にある。ボディ体積の2%でしかない脳は、カロリー補給量の25%を吸収
しているのだ。人間は脳で思考する。今や人間はこの地球のほぼすべてを支配し、ホモネ
アンデルタールたちのような異なる人類を滅ぼし、同時に他の捕食動物たちをも脅かして
いる。


45億年という地球の歴史や百万年前にいた直立猿人などの古人類に比べたら、現生人類
による支配はごく最近のことだと言える。現生人類が15万年前にアフリカに生れたとは
いえ、かれらが地球上の各地に流れ込むことに成功したのは7万年前のことなのである。

その前、今からおよそ10万年前にホモサピエンスがアフリカから出ようとしたときは、
失敗しているのだ。いくつかの理論は、先にユーラシア大陸を支配したホモネアンデルタ
ールたち古人類との競争にかれらが敗れたことを説いている。古人類が絶滅したのは、ス
マトラのトバスーパーボルケーノの噴火で地球の冷却化が起こった7万4千年ほど前の時
期だ。

トバの大噴火から4千年後、現生人類はアフリカからの2度目の旅立ちを行った。そして
かれらはやっとネアンデルタール人や他のすべての古人類を圧迫することに成功した。4
万5千年ほど前に、かれらは古人類がひとりとして到達していなかったオーストラリアへ
もやってきた。

その7万年前の時期に、遺伝子突然変異によって人類の認知革命が始まったのではないか
というのが、ユヴァル・ノア・ハラリの考えだ。筏を作り、次いで小舟を作り、灯油ラン
プや弓矢を作り、衣服を縫う道具を作った。こうしてかれらは寒地にも向かうことができ
た。

更に1万2千年前には動植物の家畜化や栽培能力を身に着けて、農業革命の段階に入る。
5千年前には科学革命期に入り、人類は異なる種のあらゆる動物に先んじて、より速いス
テップで歩み始めた。人類は自らをホモサピエンスと名付けた。賢明なる人間という意味
だ。


今や人類は同じ人類をも先んじようとしている。計算・パターン作成・決定などの仕事を
人間に代わって行い得る人工頭脳を人類は創造したのだ。こうして、機械を自動的に動か
すことが可能になった。

オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授は、人間のさまざまな仕事にロボット
が取って代わるのは時間の問題だと述べた。アメリカにある702種の下層労働の47%
はこの先二十年の間にコンピュータが取って代わるだろうとかれは予想している。

アメリカばかりか、ILOの2016年報告はインドネシアを含むアジア5カ国の労働者
の56%に当たる2億4,220万人が機械に職を奪われるだろうと推測している。イン
ドネシアで職を奪われるリスクの高いのは、商店員1千4百万人、事務員1千7百万人、
建築工210万人、衣服縫製者110万人とのこと。

ニュース記者も安全でない。イスラエルのパイオニア企業アーティクーロはコンピュータ
のアルゴリズムでニュース記事を作った。そのスーパーコンピュータは同一のテーマで読
みやすい別々の記事を百編も迅速に作り出す能力を持っているのである。


残された人間の特色とはいったい何なのか?人間の特色は想像力にある。これまでのとこ
ろ、それができるのは人間しかいない。ハラリは言う。「手にしているバナナをわたしに
くれたら、おまえは死後サルの天国であふれかえるバナナを褒美にもらえるのだ、という
話をあなたがサルに信じさせることはまず絶対に不可能だろう。」

想像力は洞窟絵画から詩に至る文化表現を生み出した。想像力は文明をも作り上げた。し
かし今、想像力はホモサピエンスを罠にはめている。混み合う電車内に座って、傍らに立
ったおばあさんに何の意も払おうとしない若者がいる。携帯電話機に没頭しているために。