「カリフ思想を拒む(前)」(2017年06月02日)

ライター: 国家制度法国家行政法教員協会会長、2008〜13年憲法裁判所長官、
モッ・マッフッ・MD
ソース: 2017年5月26日付けコンパス紙 "Menolak Ide Khilafah"

「イスラムの政治システム行政システムが存在しないことを証明せよ。イスラムは完璧で
完全なるものであり、一切のものごとがその中に調えられている。統治システムとしての
カリフ制を含めて。」

わたしが憲法裁判所長官を務めていた時期に全東ジャワ州ムハマディヤの会合でスピーカ
ーを勤めたとき、ブリタル出身の団体活動家が少々憤りながらわたしにぶつけてきたのが、
その言葉だった。

そのときわたしは、「インドネシアイスラム民衆にとっての憲法」に関するスピーチをそ
のフォーラムで行うよう、わたしの友人でシドアルジョムハマディヤ大学教官であるザイ
ヌリ教授にスピーカーとして招かれていたのだ。

わたしはそのとき、インドネシアのイスラム民衆はパンチャシラと45年憲法を基盤とす
るインドネシアの政治システム行政システムを受入れなければならないのだ、と述べた。
プルーラリズムやビンネカトゥンガルイカをベースに置くパンチャシラ国家原理はインド
ネシア民族の多様性という現実に合致したものなのである。

わたしは、こうも述べた。イスラム教義の第一義典拠であるアルクルアンとスンナナビム
ハンマッSAWには、政治・行政・政府のシステムに関する標準化された教えはない。イ
スラムの教えには国家生活の遂行やカリフという術語が記されているものの、そのシステ
ムや構成はアルクルアンやスンナの中で定められておらず、場所と時代の必要性に即して
ムスリム層に委ねられたものになっている。


< パンチャシラ国家原理 >
カリフという統治システムは人間の創造物であり、その内容は時代や場所に応じてさまざ
まなものになっている。イスラムはスタンダードな統治行政システムを持っていないのだ。
インドネシアのイスラム民衆はインドネシア社会自体の現実とその必要性に応じた統治シ
ステムを持つことができる。インドネシアの建国と設立に参加したウラマたちは、パンチ
ャシラ国家が最終の選択なのであり、それはシャリアに対立するものでは決してなく、民
族の最高合意として受け入れられるべきものである、と表明している。

そのようなわたしの説明が、イスラム教義の第一義典拠の中に政治行政システムが存在し
ないことを証明せよと責任を追及する、頭書のブリタル出身イスラム団体活動家の発言を
煽ったということだ。その発言に対して、わたしは逆質問を発した。カリフ制度というス
タンダードなイスラム統治システムが存在しないことをわたしが証明する必要などまった
くない。そんなものは実際にないのだから。証明しなければならないのは、イスラムに標
準的な行政システムや政治システムがあるなどと言う人間のほうだ。
「きみがイスラムに標準的なシステムがあると言うのなら、きみの方が今それを証明した
まえ。どのようなシステムで、それがどこで行われているのかを。」

かれはスタンダードなカリフシステムがどのようなものであるのかを示すことができなか
った。かれに対してわたしはもう一度言明した。標準的なシステムはイスラムの第一義典
拠の中に存在せず、すべてが社会状況と時代の進歩に即して民衆に委ねられているのだ、
と。

その証拠に、世界のイスラム界自身、さまざまに異なる統治行政システムを用いている。
王制を用いているところ、アミール制、スルタン制、共和制など、さまざまな原理が使わ
れているのである。[ 続く ]