「老齢年金の社会化はこれから」(2017年06月08日) インドネシアの企業のほとんどは、従業員の停年退職年齢を55歳や60歳と定めている。 ところがインドネシア人の平均余命は、2014年の世銀データによれば、68.89年 となっており、停年退職後の経済生活を支える手段が必ず必要になる。 金融サービスオーソリティが2016年に行ったリテラシーサーベイによれば、ペンショ ン資金に関するリテラシーインデックスは10.9%、算入インデックスは4.7%だっ た。インドネシアのフォーマルセクター就労者は5千万人、インフォーマルセクターは6 千8百万人いて、ペンションスキームに参加しているフォーマルセクター就労者は1千7 百万人しかいない。 マニュライフが17年2月に行ったサーベイでは、回答者の96%がペンション期に現在 と同程度もしくはもっと上のライフスタイルをエンジョイできると答えたものの、その資 金に3億ルピア以上用意できることを確信している回答者は20%しかおらず、ほとんど は1億ルピアを下回っていた。現在の平均的家庭支出がひと月4百万ルピアだとするなら、 1億ルピアで維持できる期間はすぐに過ぎてしまうだろう。 勤労しなくなれば通勤費や昼食費の支出が削減されるが、それで生活費が低下するのはせ いぜい10〜20%であり、反対に医療費の支出が増加する。国有保険会社代表取締役は その実態について、6%しか低下しないと語っている。 HSBC銀行が15年10〜11月にインドネシアを含む12ヵ国で行った調査では、回 答者の64%が将来の身体の健康に不安を抱き、また54%が経済面の健康に不安がある ことを表明した。ところが、そのための何らかの資金準備を行っているのは67%で、3 3%はまったく何もしていないことが明らかになっている。おまけに44%のひとは資金 準備を長期的視野で見ておらず、短期的に発生する不慮のできごとへの備えという感覚の 方が強かった。 政府が行っている勤労者社会保障の年金制度に加入しているひとは1千3百万人いる。こ の制度では、15年間掛け金を納め続けることで、勤労期間中の月収の4割を給付される ことになる。現在の計算では、最高月収770万ルピアで給付金額は32万から380万 ルピアとされている。実際の月収が770万を超えているひとは770万ルピアに揃えら れてしまうこと、また給付金額が4割しかないということなどのために、この制度の魅力 が今一つ世の中に浸透しない結果を招いているようだ。 年金制度の内容が魅力的でないなら、世人はどうするのか?勤め先を退職してから、かれ は老体に鞭打って別の収入源を探すことになる。つまり統計に入らない労働人口が出現す るわけだ。 一方、国による年金制度が適用されている文民公務員と軍人・警察員も、インフレによる 貨幣価値の目減りによって、昔の現役時代に享受したライフスタイルの維持は不可能にな っている。もっとひどいことに、現役時代には国が用意してくれる住居に入ってぬくぬく と暮らしていた者も少なくなく、かれらの中には住居を失って子供や親族の家に転がり込 む者が多い。おまけに働こうにも潰しのきかない体質になってしまっている場合、残され た道は借金だけとなる。かれらの50%以上が銀行に借入を作っている、と国有保険会社 代表取締役は語っている。