「危険と隣り合わせの火山観光(前)」(2017年07月13日) インドネシアは火山国だ。そして独特の魅力を持っている火山がいっぱいある。単に高い 山に登ることで得られる涼しさや景色の良さだけでは終わらない魅力がそれだ。とはいえ、 火山は人間に災害をもたらすものでもある。火山観光を楽しむとき、火山が持っている危 険を忘れてならないのは言うまでもあるまい。 最近起こった災害は中部ジャワ州バンジャルヌガラ県のディエン高原にあるシレリ火口 (Kawah Sileri)で17年7月2日12時ごろ発生した水蒸気爆発だった。ディエン高原観 光に来ていた観光客17人が直接噴火にさらされて4人が怪我をしている。噴火は火山泥 流、火山性物質、泥や煙が吹きあがり、煙は高さ50メートルにまで達した。 インドネシアの火山警報つまり火山警戒ステータスは次の四段階になっていて、鉱エネ省 管下の地学庁火山地質災害対策センターが観測結果を分析して発表している。 ? Awas 危険 ? Siaga 警戒 ? Waspada 注意 ? Normal 平常 シレリ火口の警戒ステータスは噴火時にアクティブノーマルという第Iレベルにあり、噴 火が起こったあともステータスはそのままになっている。火山地質災害対策センターの解 説を読むなら、火山というのは平常レベルでも小規模な噴火が発生する可能性を常に秘め ているものであり、平常だから噴火がなく、接近しても大丈夫だということでは決してな いのだそうだ。特にシレリ火口については、小規模な噴火の可能性が高まっていることを センターは地元自治体に17年5月24日に通告している。地元自治体はその警告を火口 近辺に掲示したが、観光客が火口に接近することをあまり真剣に禁止しなかったようだ。 インドネシア人が本来的な性向として持っているアンスロポセントリズム、群衆への追従 志向、悪い結果を予測して未然の対策に努めることを軽視するオプティミズムなどが、地 元自治体の観光客に対する厳しい禁止措置を難しいものにしていることは言うまでもない だろう。火山地質災害対策センターからの警告に従って安全第一をはかり、現場では異常 現象がまだ何ひとつ起こっていないというのに火口から百メートル離れた場所で観光客に 立ち入り禁止措置を執れば、喧々囂々の非難が湧き起こるのは火を見るよりも明らかだ。 地元観光振興との板挟みになるよりは掲示板ひとつでその責任を回避しようという方向性 に向かうのも人情であると言えるにちがいない。 自治体が無責任なのでなく、社会自体がそういう傾向を持っているために起こっている現 象だという理解が、このケースではなされるべきだろう。インドネシア社会が持っている 天然災害の危険に対する態度というものを、外国人は正しく把握しなければならない。さ もなくば、2004年6月に火山警戒ステータスが高まっていたブロモ火口に接近して生 命を落としたシンガポール人観光客の二の舞になりかねない。地元のガイドがついていて さえ、そんな事故が起こるのである。政府が公表する火山警報を自分で把握して判断する ようにしなければ、インドネシア人観光客が大勢火口に接近しているから、地元ガイドが 禁止しないから、といった理由で群衆追従を行うと、とんでもないことになりかねない。 [ 続く ]