「パサルバルの中古カメラセンター(下)」(2017年08月04日)

ハルコとメトロアトムには百軒を超えるフォトグラフィ関連商品やサービスを販売してい
る店がある。ここへ集まってくる消費者のメインは中古品のカメラやアクセサリー類およ
び修理がお目当てであり、言うまでもなく価格は廉い。

類似の、あるいは品質的にほとんど差のない商品が都内の他の場所で販売されていても、
価格はここのほうが圧倒的に廉い。店主の一人は、ここが他の場所より3〜5割廉いのは、
他の場所にある店の多くがここで仕入れているからだ、と語っている。「ここには中古品
で状態の良いものがそろっており、新品に比べて95%のクオリティレベルのものすら手
に入る。」


ハルコの三階に店を出しているジャカルタカメラは在庫商品のほとんどが中古品で、19
40年代に作られたものからデジカメ時代が始まるころまで生産されていたアナログカメ
ラで占められている。価格は一台百万ルピアから数千万ルピアというレベル。その店で一
番よく売れるのはカメラレンズ。そしてカメラ本体で人気の高いのはニコンFM2だそう
だ。

ジャカルタカメラ店主は自分の専門であるアナログカメラに特化した。デジタルカメラ勃
興期に商売は衰えたが、その後アナログ中古カメラ需要は復活してきており、店の売上も
2013年の月1〜1.5千万ルピアから2015年は2千万ルピアに上昇したとのこと。
アナログカメラの需要が供給を上回りつつあるため、中古カメラの価格は上向きになって
いる。将来的に価格はどんどん上昇するだろうと、かれは予測している。


ハルコの別の店では、日本・ロシア・ドイツで作られたアナログ中古カメラが商品の大半
を占めている。

ハルコとメトロアトムでの売れ筋商品は、カメラ本体ならキャノン・ニコン・ライカ・ヤ
シカ・ペンタックス・オリンパス、アクセサリーはレンズ・バッテリー・チャージャー・
カバー・フィルターなど。

客層は廉価中古品をお目当てにするひとびとがマジョリティを占めるが、インドネシア人
ばかりか外国人観光客もやってくる。そして価格に厳しい消費者の常で、タワルムナワル
や他店との価格比較を行うのは当たり前になっている。

だから店側も心得ており、商品を触りまくって価格を尋ね、そのままプイと店を出て行く
客がいても、塩を撒くようなまねは絶対にしない。価格を尋ねるだけにとどまらず、値下
げの掛け合いをした上でプイと店を出て行く客すら存在する。だがインドネシアで買物客
は王様なのである。

インドネシアで客が神様にならないのは、インドネシア文化が一神教に染まっているため
だ。一神教では人間が神になることはありえない、という常識を忘れてはならないだろう。

という余談は別にして、店側も客がそのようなビヘイビアを示すのは当たり前と心得てい
るから、われわれ外国人もインドネシアの消費者と同様、王様になったつもりでふるまわ
なければ足元を見られるにちがいない。インドネシアにおける物品サービスの売買は、か
つて日本でも行われていたように勝ち負けを競う場なのである。「おまけする」という日
本語は、売り手が故意に負けてやることを語源にしている。ぼったくりという概念をそこ
に当てはめようとするのは負け犬の遠吠えに近い。いや、インドネシア経済に奉仕しよう
という気持ちでショッピングするひとはまた違うだろうけれど。[ 完 ]