「命がけだらけのインドネシア」(2017年08月22日)

タングラン県チクパ郡ビトゥンジャヤ村で暴力騒動があった。素行を注意された者が注意
した人間を短剣で襲ったのだ。そんな事態になると、襲う側は本気で相手を殺そうとして
いるから、苦言直言はよくよく腹を括って行わなければならない。もちろん誰でもが護身
術を身に着けているわけでもないから、苦言直言する者はいきおい少数派になる。インド
ネシアで見知らぬ他人に苦情する者が少ないのは、そういう事情がからんでいることを認
識しなければならないだろう。たいていのインドネシア人も、何が正しくて何が間違って
いるかは理解している。それが社会秩序形成に向かわないのは、為政者の社会統御の問題
があるにせよ、社会構成員の自発的な行動を「命がけ問題」が邪魔しているということが
言えるにちがいない。そんな立場に置かれない人間が「軟弱」で「社会意識が低い」とい
う批判を下しても、結局は言うが易くなのではあるまいか。


ビトゥンジャヤ村で長期間の部屋貸しであるコス業を営んでいるバンバン・エコ氏のコス
住人Nさん(25歳女性)に会いに二人連れの男性がやってきて、男性のひとりがNさん
の部屋に入り、ドアを閉め切ってふたりだけでこもってしまった。

Nさんは南スマトラ州パレンバンの出身で、ふたりの男性もパレンバン者だそうだ。午前
10時ごろやってきてから夜中の23時を過ぎても、Nさんの部屋に入った男性は帰ろう
ともせず、部屋から出てもこない。

エコ氏はNさんの部屋へ行って、男性に注意した。ここはまともなコスであり、風紀の乱
れは容認できない。夜はいったん帰って、また明日来たらよかろう。

ところがその男性は即座に拒否した。「オレはかの女の夫なんだぜ。風紀なんか関係ねえ
よ。」
エコ氏はNさんに尋ねる。「そりゃ本当かね?あんたは独身じゃなかったのけ?」
Nさんは否定した。「いえ、このひとはあたしのパチャルよ。」

N氏は強い態度に出た。すると男性は部屋の中へ入り、短剣を手にしてエコ氏に襲い掛か
ったのである。エコ氏は短剣を奪い取ろうとしてもみあいながら、大声で助けを求めた。
近隣住民たちが集まってくる。

すると男性はエコ氏から離れて一緒に来たもうひとりの男に応援を求めた。もうひとりの
男も短剣を手にしてエコ氏に近付いてきたが、そのときには近隣住民たちがエコ氏の側に
ついて、刃物を手にしたふたりの男性に向かって行った。

多勢に無勢では勝ち目がない。二丁の刃物は誰の血を吸うこともなく地面に叩き落され、
凄絶なリンチがパレンバン者をいたぶった。あざだらけのふたりは警察に連行されて留置
場入り。警察はNさんのパチャルである25歳の男とその連れの28歳の男を、殺害を目
的にして他人を襲撃した罪状で送検することにしている。刑罰は最長10年の入獄とのこ
と。