「パルンの観賞魚パサル」(2017年09月11日)

西ジャワ州ボゴール県パルン(Parung)と聞くと、いかにもジャカルタから遠いような印象
を受けるが、ボゴール市内へ行くよりもはるかに近い。南ジャカルタ市ポンドッキンダ
(Pondok Indah)地区からだと、ほんの20キロ程度の距離だ。パルンの少し向こうまで行
くと、チセエン(Ciseeng)という温泉郷もある。昔は民宿しかなかったが、今ではモダン
な宿泊施設ができているようだから、泊りがけで温泉を楽しみに行くのもきっと面白いに
ちがいない。

さて、そのボゴール県パルン郡ワル村に東南アジア最大と言われている観賞魚専門パサル
がある。このエリア一帯では昔から観賞魚の養殖産業が盛んで、パサルができるのも時間
の問題になっていた。パサルが作られたのはもう十年以上も前のこと。


サワガン(Sawangan)を経由してジャカルタとボゴールを結ぶ街道から2百メートルほど分
かれ道を入ったところに、この観賞魚パサルがある。ここからはパルンの在来市場へも近
い。都内ルバッブルス(Lebak Bulus)⇒チプタッ(Ciputat)⇒サワガンと車で走ってくると、
パルン市場がつい先にある。その辺りで徐行し、観賞魚パサルの場所を道端にいる住民に
尋ねれば、かれらは親切にそこへ行く方角を教えてくれる。

30x20メートルのトタン屋根に覆われた吹き抜けの観賞魚パサルでは、終日雑踏と取
引の声が絶えない。何しろ首都圏の観賞魚販売店が商品を仕入れにここへ集まってくるの
だから。いや、首都圏ばかりか、全国各地の商人たちもここへやってくるのだ。

もちろん、インドネシアの常である卸と小売りのごちゃ混ぜはここでも行われている。自
宅の水槽で観賞魚を愛でる愛好家もいれば、店を持ってそんな愛好家に小売り販売するた
めに商品を仕入れに来る店主もいる。言うまでもなく仕入れ価格は低くしなければ商売に
ならないから、店主はタワルムナワルに熱を入れるが、大量にあるいは頻繁に買いに来る
客は売り手のほうも心得ていて厚遇するため、個人愛好家向けとは同じ価格にならないの
が普通だ。それでも個人愛好家は、都内の観賞魚販売店で買うよりも廉い価格で望みの品
を手に入れることができる。

パサルに来ていたデポッ(Depok)市在住のベタ愛好家は、パサルの中で売り場をあちこち
熱心に見て歩いている。インドネシアでチュパン(cupang)と呼ばれるベタの飼育は、自営
業オーナーであるかれのストレス対策なのだそうだ。この趣味を始めてもう9年になるか
れは、ここが一番廉い、とパルン観賞魚パサルを絶賛する。買ったばかりのビニール袋に
入ったベタを示しながら、「ここでは2千ルピアでこれが買える。ジャティヌガラでは5
千ルピア出さなければ買えないよ。」と語る。かれはその趣味が高じて、今ではベタや鯉
の再販をサイドジョブにするようになった。2千匹売れば2百万ルピアの純利になるそう
だ。


このパサルでは、鯉・ベタ・ブラックゴースト・ロウハン・レッドピンサ・アルワナ・ボ
ティア・ニラなどが販売されている。販売者の多くは養殖場でそれらを生産し、池からこ
のパサルへ持ち込んで販売している。養殖場からビニール袋に入れて持ってきてそのまま
販売する売り場もあれば、50x50センチ程度の池を作ってそこに商品を泳がせている
売り場もある。

販売者はたいていがボゴール県内の養殖業者だが、西ジャワ州スカブミから来ている者も
いる。スカブミから来ている販売者は、毎朝夜明け前に商品を持ってパルンを目指し、夕
方まで商売をして帰宅しているそうだ。「昔は販売者は片手で数えられるくらいしかいな
かった。みんなパルン市場の脇の路上で店開きしていた。今とは大違いだ。今は一日の売
上が5百万ルピアにのぼっている。」

パルン観賞魚パサルにはおよそ2百人の販売者が売り場を開いている。以前は月・水・金
曜日が24時間オープンの市日だったが、遠方から来る購買者たちの希望を入れて日・火
・木曜日が市日になった。連続して二日開かないのは、魚を24時間以上ビニール袋に入
れておくと、魚がストレスを受けてよくないのだそうだ。

このパサルはもともと養殖業者たちが集まって自力で設けたもので、地元行政は関与して
いない。そのせいで売り場テナント料は年間100万ルピア。パサル管理者はほとんど宣
伝らしきものはしていない、と言う。観賞魚愛好者マーケットが口コミで宣伝してくれて
いるのだ。おかげで市日の売上総額は8億ルピアにのぼっている。

市日は24時間営業だから、朝から翌朝まで商売が続けられる。パサルでは夜ともなれば、
煌々と輝く灯りの下で活発な取引が営まれている。