「ノートラストソサエティ(後)」(2017年09月19日)

それはともあれ、ところがなんとその一方で、ジャカルタではこんな現象が起こっている。
タムリン通りの裏側とも言えるハジアグッサリム通り(旧名サバン通り)にはパーキング
メーターが道路の両側に合計11基設けられており、通りの脇に駐車した者はカードで駐
車料金を支払うシステムになっている。パーキングメーターは現金を受け付けない構造を
しているから、これもそのものズバリのノンキャッシュシステムだ。ところがそこにも抜
け道が作られていた。駐車番が自分のカードでパーキングメーターに支払いを行い、その
金額に応じた現金を駐車番に渡すというのがその方法である。

ここでの駐車料金はセダン型が一時間ごとに5千ルピア、バスやトラックなど大型車両は
一時間ごとに8千ルピア、二輪車は一時間ごとに2千ルピアで、支払いは銀行が出してい
るキャッシュレスカードはたいてい使える。


ある日、コンパス紙記者がその地区で13時から15時まで取材した。ところが、やって
来てそこに駐車する運転者の中に、すぐにパーキングメーターの場所へ行く者がほとんど
いない。車から降りると、そのまま自分の目的の場所へ行ってしまうのである。パーキン
グメーターは完全に無視されているのだ。駐車番が忙しそうに、新たに停めた車のプレー
ト番号をメモしては、パーキングメーターに行って自分のカードで支払いを行っている。

駐車番の話では、毎日30万ルピア分が入ったカードがかれらに渡されるのだそうだ。駐
車番はパーキングメーターから出てきた支払い領収証憑を大事に保管しておく。

運転者が車に戻って来てそこから立ち去ろうとすると、駐車番は支払い領収証憑を運転者
に渡して現金をもらうのである。つまり運転者はこのパーキングメーターシステムに関し
て、自分が行うべきことを駐車番に代行させているということだ。

多数の車が相前後してばらばらと駐車すると、駐車番のケアからもれてしまう車の出るこ
とがある。そんなときはパーキングメーターの領収証憑が用意できないのだが、運転者は
まず間違いなく現金で駐車料金を支払ってくれるそうだ。

オートバイでやってきた宅配便配達係のアディさん35歳は、パーキングメーターシステ
ムは実に有益だ、と語る。「領収証憑が出るから、会社への経費請求はまったく問題ない。
でも急いでるから、パーキングメーターはたいてい駐車番にやってもらってる。自分では
めったにやらないね。」

昼食のためにこの地区へセダン車でやってきたヨヨッさんも、パーキングメーターを自分
で触ることはほとんどないそうだ。「駐車番がいるんだから、駐車番に現金を渡すよ。パ
ーキングメーターが遠かったりしたら、めんどくさいから。」

北ジャカルタ市プルイッ地区にもパーキングメーター使用エリアがあるが、状況は似たり
寄ったりだった。機械よりも人間のほうに接近したがるインドネシア人の性癖は、まだあ
まり変化していないようだ。[ 完 ]