「プリブミ宗教国家(終)」(2017年11月01日) ところでインドネシア政府はこの「プリブミ」という単語を既に禁句にしており、公職者 である新都知事がその規定に違反したことを問う論調がメディアをにぎわしている。 「人種・種族の差別解消」に関する2008年法律第40号では、スペシフィックに「プ リブミ」という単語を禁句にしているわけではないが、法の前で同等の権利と義務を有す る国民を差別し、分裂を煽るような言葉を使ってはならないという主旨内容から、「プリ ブミ」がそれに該当するのは明らかであり、公職者はもとより国民のすべてがそんな言葉 の使用を避けることをその法律が命じている。 それよりもっと前の1998年に、「プリブミ」と「ノンプリブミ」という語を使用して はならないというスペシフィックな大統領指令が出されている。「プリブミ」と「ノンプ リブミ」という言葉の使用廃止に関する1988年大統領指令第26号でハビビ大統領は 全省庁と政府機関、全官房機構、全国地方首長(知事・市長・県令)に対し、すべての政 策策定と遂行、プログラム企画、行政催行活動実施において、「プリブミ」と「ノンプリ ブミ」という言葉の使用を禁止した。更に種族・宗教・民族を問わず国民には同じ扱いと 行政サービスを提供するよう命じ、この趣旨に違背する現行法規・国民へのプログラムや 政策などがないかどうかを見直すよう求めている。 大統領指令というのは国政トップから行政上の下部組織に対する指示命令であり、罰則な どが記載された例をまだ見たことがない。30年近く前に出されたトップからの指示を今 の都知事が破ったわけだが、今のトップがどんな罰を降すのだろうか? 今回全国的な問題になった都知事の発言について都知事自身は、植民地時代のコンテキス トにおけるその語の使用であり、現代語としての意図がそこには含まれていないと釈明し ているのだが、ハビビ大統領が出した指令には例外など何一つ与えられていない。 一方スペシフィックに「プリブミ」という言葉を禁止してはいないにせよ、2008年法 律第40号には言うまでもなく刑罰規定が盛り込まれている。第16条には、人種・種族 の差別を踏まえて他人に憎悪や憎しみの感情を故意に示した者には、最長5年の入獄およ び/あるいは最大5億ルピアの罰金を科す、と記されている。 都知事の就任スピーチがなされたあと、NGOや民主主義活動家が個人や団体名で国家警 察に対し、アニス・バスウェダン新都知事が2008年法律第40号の違反を犯したとし て告発した。 警察がそれを取り上げて送検すれば裁判に向かうわけで、親バスキ派の復讐戦が実現する かもしれないが、グリンドラ党首がそんな無様なことを放っておくはずがあるまい。 諍いが怨恨を生み、怨恨が諍いを再生産させるこの歴史は、ジャワ島の過去の王朝から連 綿と受け継がれてきた。この民族は癒せない傷を今後も担い続けるのだろうか?[ 完 ]