「アタンブアの旅(後)」(2017年11月10日)

モタアインから北岸道路を海沿いに10キロあまり西に下って行くと、アタププ(Atapupu)
の港町がある。アタププ海岸は夕方訪れるのが理想的。サンセットを愉しむのに絶好の場
所だ。もし夕方まで時間がたっぷりあるのなら、もっと西に向かって進めばよい。更に1
0キロほど行ったところに、グリタ湾(Teluk Gurita)がある。グリタはインドネシア語で
タコを意味しており、その名の通り、その海岸にはタコがたくさん棲息している。

地元の伝承によれば、昔その海には船を沈めることのできる巨大タコが住んでいたとのこ
とだ。その昔、スペイン船がこの海域までやってきていたころ、あるとき一隻の商船がこ
の海岸に交易しようとして接近してきた。すると突然海中から巨大タコが足を延ばして船
に巻き付き、海中へと引きずり込んだという目撃談がその伝承の内容になっている。

そんな巨大タコは今や昔語りとなってしまったが、海岸では引き潮になるとタコが手づか
みで獲れると地元民は語っている。獲れたタコでグリタゴレン(gurita goreng)かグリタ
バカル(gurita bakar)にして食べるのもうまそうだ。それとも生食か。少なくとも海水は
重金属汚染から免れているのではあるまいか。


ティモール独特の織物を土産物にするのはどうだろうか?黒を基調にして黄色・オレンジ
・緑などを菱形に配したモチーフがここの特徴だ。アタンブアから車で10分の距離にあ
るカブナ村(Desa Kabuna)の民家を訪れて織物のプロセスを見学し、織り上がったものが
あれば、それを買えばよい。大都市の流通機構に乗せられたものの価格を知っているひと
は、きっとその廉さに驚くにちがいない。

家の中で機織りをしている娘たちは、来客に美しい微笑みと暖かいもてなしを与えてくれ
る。観光客が自分でその家を訪うても構わないし、あるいはガイドに頼んでもよい。純朴
な地元民との触れ合いはきっと心和ませてくれるだろう。

普通かの女たちは、織り上がると品物を近くのパサルに売りに出す。品物をたくさん見た
ければ、そのあとパサルに回ってみよう。


アタンブアを訪れて、地元のうまいものを味わわなければ、旅の意味が半減する。夜の帳
が降りれば、地元民が夜風を求めて集まってくる町中の公共広場へわれわれも繰り出そう。
すると広場の端の方から、おいしそうな匂いが漂ってくる。

並べられた薪のコンロにかけられた鍋が、そのおいしそうな匂いの根源だ。店主の名前を
とった屋号は「Pojok Mak Onah」、「オナ母さんのコーナー」といったところか。

既に大勢の客が順番待ちで、鍋の中身ができあがるのを待っている。人気メニューはfehuk 
kukus。キャッサバにココナツの果肉と砂糖を混ぜて蒸したものがそれ。もうひとつはaka-
bilan。これはサゴを焼いて小魚と一緒に食べるもの。

東ヌサトゥンガラでムスリムはマイノリティだ。つまり住民はたいていアルコールがお好
きなのである。地元で作られるヤシ酒が、外来からの客人をもてなすのに使われる。たと
え相手がムスリムでも、そのもてなしパターンはあまり変化しない。ムスリムが拒もうと
すると、これはアダッ(adat = 慣習)だから、と強いられるのが普通だ。だからたいてい
のムスリムも軽く一口喉に流して、親睦と友好を表現する。偏執型のムスリムは地元民と
親しくならないように振る舞うしかないだろう。[ 完 ]