「ポソの旅(前)」(2017年11月14日) 宗教戦争という大仰なレッテルが貼られ、残酷な殺戮映像が世界中をグロテスクの悪夢に 引きずり込んだ中部スラウェシ州ポソ(Poso)の町の住民間抗争事件は、いまだに本質的な 解決に至っていない。しかしもう長い間、血で血を洗う騒乱は影を潜めており、美しい風 光を楽しみに訪れる観光客は増加している。 宗教戦争と誰かが呼び始めたあの抗争事件が、わが神の栄光を奉るために異教徒を血祭に あげるという、後になって出現してきたようなものでなかったのは、 「宗教戦争? ポソで何が起こったか」 http://indojoho.ciao.jp/koreg/tposo.html の後半部分を読んでいただければ明らかになると思う。売らんがための卑しい目論見に振 り回されないよう、気を付けて自らを保持するに越したことはあるまい。 日本語グーグルがポーソとカタカナ書きしているポソへジャカルタから空路で行くには、 まずマカッサルへ飛ばなければならない。マカッサルからポソの空港へは、72シートの 小型旅客機が一日一便だけ飛んでいる。ジャカルタからの便はその乗り継ぎのためにとて も朝が早いから、乗り遅れないようにしなければならない。 ポソの観光スポットはポソの町から遠く離れた場所にあるため、ポソの空港に降りたあと まずポソの町で英気を養うか、それとも陸路1時間半をかけてテンテナ(Tentena)に直行 するかの選択に迷うことになる。去る9月にポソに旅したコンパス紙記者はその足でテン テナに直行した。そのときの旅行記がこれだ。 午前6時〜7時:ポソ湖 朝早く、テンテナの町から近いポソ湖に向かう。ポソ湖はインドネシアで三番目に深い湖 だ。トップは南スラウェシ州東ルウ(Luwu Timur)のソロアコ(Soroako)にあるマタノ湖 (Danau Matano)が水深530メートル、二位は北スマトラ州のトバ湖で529メートル、 そしてポソ湖が450メートル。 静かで落ち着いた湖の水面を眺めるとき、平安がひとの心を満たしてくれる。周辺の空を 飛び交う野鳥のさえずりを伴って、一陣の風が吹き抜けて行く。魚を追う地元民の小舟が 静かに通り過ぎて行く。都会の喧騒を忘れて静かな湖畔にたたずめば、どこか懐かしい記 憶の中にいる自分に出会うことも起こる。 かつてポソ湖にはたくさんのウナギが生息していた。地元民はさまざまな調理法でウナギ を食していたが、最近はウナギの数が激減しているとのことだ。 午前7時〜13時: バダ盆地 中部スラウェシのパル(Palu)、ナプ(Napu)、ブソア(Besoa)、バダ(Bada)の四つの盆地に は数百の巨石文化遺跡が散在している。ポソ湖を後にして、そのひとつバダに向かった。 今、道路は薄くアスファルトがひかれておよそ2時間の道程になっているが、1990年 代は遠距離に旅する気が起こらないような道路のありさまで、地元民ですらその距離を一 週間かけて移動していた。 緑の森林に囲まれ、カカオ農園があり、山々のひだや曲線の美しさを車窓から愉しむこと も可能だ。道路は空いており、対向車もめったにすれ違わない。こんな場所に食堂や食べ 物ワルンを開いても商売にならないから、観光客は飲食物を持参するのを絶対に忘れては ならない。 盆地にあるいくつかの村に巨石文化が残した遺物が散在しており、その数は百を超える。 発見された遺物の放射性炭素年代測定では遺物の作られた時期が今から2,890年〜 2,460年〜2,170年前と推定されている。またフヤ(fuya)と呼ばれる木の皮で 作った布もこの地のものだ。その伝統はいまだに地元民に伝えられている。[ 続く ]