「不死身の術」(2017年11月29日)

インドネシアにドゥブス(debus)という名のアトラクションがあり、人体を刃物で切った
り、薙ぎ払ったりしても怪我をせず、また劇薬をかけてもなんともない、という一種の護
身術を見せてくれる。他にも、燃えている火を食べたり、舌や頬や他の身体部分に針金を
刺したり、刃物で切ったり刺したり、頭頂部で卵を焼いたり、身体を火で焼いたり、研ぎ
澄まされた鉈の上に座ったり、ガラスの破片の上で寝転がるなど、クダルンピン(kuda 
lumping)でも行われるようなことをする。

この術の発祥の地は西ジャワのバンテン王国で、初代スルタンであるマウラナ・ハサヌデ
ィンの時代に西ジャワ地方に持ち込まれ、イスラム布教のために使われたとのことだ。ド
ゥブスの語源はアラブ語で、一端が鋭く尖り、他端の丸くなった金属棒の名称である由。

ドゥブスの術は師について学ぶ。神秘主義の色合いが濃く、その中にイスラム教が包み込
まれていて、この術を学ぶ中で弟子は必然的にイスラム教徒になるという仕組みだが、修
行内容は教義の実践でなく魔術修行に近い。


タングラン県スパタン郡ルバッワギ村に住み着いたランプン出身のドゥブス師が14人の
弟子を持って術を教えた。このドゥブス師は教授法が二段階になっていて、まず刃物で身
体を切られても傷を負わない術、次いで劇薬に対しても身体がそれをはねつける術に分か
れていた。

このドゥブス師に師事した村人は14人で、53歳ひとり、40歳ひとり、39歳ふたり、
35歳ひとり、27歳ひとり、22歳三人、21歳ふたり、20歳ふたり、19歳ひとり
から成っていた。

修行のコースを終えた14人は一週間ほど前に鉈で身体を切ってみる試験を行い、全員が
それにパスした。怪我した者はひとりも出なかったらしい。そして一週間後の17年11
月26日、劇薬の試験が行われた。弟子たちは劇薬を買ってきた。師の指図に合わせて、
全員が劇薬を手に流した。ところがしばらく経ってから、全員が異状を訴えたのである。
「手が熱い」、「灼ける」、「痛い」。すると師はプイとその姿を消してしまった。

14人の弟子は全員が病院へ走った。そして7人が手首から手の平や手の甲の皮膚が爛れ
る重傷、残る半分は軽傷を負い、薬をもらって手当した。そしてこの弟子たちはプイと姿
を消した師を探し始めたのである。かれらは警察への届を出さずにいたが、別の村人から
その出来事の情報を入手した警察が捜査を開始した。

警察に知らせずに師を探し始めたのはどうしてなのか、きっと想像にあまりあるだろう。
警察は弟子たちから事情聴取した上で、そのドゥブス師を捜索している。