「危機に直面するテングザル」(2017年11月30日)

ボルネオ島固有種のテングザルはインドネシア語でブカンタン(bekantan)と呼ばれる。マ
ングローブ林や湿地林などで樹上生活をしており、かれらが群生する樹木の上で常に暮ら
しているのは、捕食されるリスクを避けるためだ。地上に降りれば大蛇やオオトカゲある
いはネコ科のウンピョウに、そして水辺や水中に落ちればワニに捕食される可能性が高ま
るのである。もちろん、指の間に水かきがあって泳ぐのもうまいが、落ちる場所にもよる
わけだ。

その野生テングザルが東カリマンタン州で異常な行動を示し始めている。パセル(Paser)
県(日本語グーグルはパシール県と書いている)のクンディロ(Kendilo)川、東クタイ(Ku-
tai Timur)県のサガッタ(Sangatta)川・セイスニウル(Sei Senyiur)川・テレン(Telen)川、
東クタイ県とクタイカルタヌガラ(Kutai Kartanegara)県にまたがるサンタン(Santan)川
などに熱帯研究センターエコロジー保存チームが設置したカメラトラップの画像が従来の
常識を打ち破る現象を示したのである。

エコロジー保存チームコーディネータでムラワルマン大学森林学部教官でもあるヤヤ・ラ
ヤディン氏は、いくつかの場所でブカンタンの群れが地上行動をしている画像が見つかっ
たことを明らかにした。またフィールド調査でも、パームヤシ農園や産業植物林あるいは
採鉱跡地の再植林場所などに移ったブカンタンの群れも見つかっているとのこと。マング
ローブなど水辺の森林の樹木数が減少して枝が密に交錯する場所が減っているため、樹上
生活が大幅に狭められており、同時に食べ物も減っていることをそれは意味していると解
釈される。それについてヤヤ氏は「地上行動を行い、更に別の場所に地上を移動するよう
なことは、かれらの間で他の動物に捕食されたものが出ていることを意味している。」と
述べた。

「産業植物林や再植林場所でブカンタンはセゴン(Sengon = Albizia chinensis,中国語で
楹樹)の若葉を食べている。従来かれらの食生活はマングローブや水辺の植物の若葉や実
に強く依存していたというのに。
オランウタンや他の霊長類がたいていの果実を食べて、ハビタットが変わることにそれほ
ど困難を抱かないのとは異なり、ブカンタンはハビタットの外で生きるのがたいへん難し
かった。かれらのハビタットが壊れつつあり、それに伴ってブカンタンにいま大きな変化
が起こりつつある。」

ヤヤ氏は従来見られなかった行動を取り始めたテングザルに関して、そのように解説して
いる。いま世界中で、テングザルはボルネオ島だけに棲息しており、個体数は1.5〜2
万頭と推定されている。