「金持ちになるおまじない(前)」(2018年01月12日) イスラムでは埋葬の際、遺体をカファン布で包み、頭の上と足の先をひもで縛る。全身を 白いカファン布で包まれた状態の遺体を指す言葉がポチョン(pocong)というジャワ語由来 のインドネシア語で、決してポコンという発音ではない。インドネシア語にポコン(pokong) という発音の単語はないものの、インドネシア人の耳にボコン(bokong)と聞こえたら侮蔑 していると思われるかもしれないから、間違ったことを覚えないに越したことはない。 そのポチョン姿の幽霊が巷で大評判であるために外国人はポチョンを幽霊のことと勘違い する可能性が高いから、これも用心したほうがよい。遺族にとってポチョン姿の親族を幽 霊扱いされたなら、侮蔑されている感覚が湧き出てもおかしくないのではあるまいか。 埋葬時、遺体は深さ1.5メートルの墓穴の底に、頭を北側にし、身体はメッカに向かう ようにして壁に斜めに横たわらせたあと、カファン布の頭部と足部の端を縛っているひも が解かれる。もちろん解かれたひもはそのままそこに残されて、上から土がかぶせられる わけだ。 ただしお断りしておきたいのは、ポチョン姿の遺体にドシャドシャと直接土をかけていく ようなことはなされないのである。いくら死者だとはいえ、土や泥まみれにしていくのは、 やはり痛ましい気持ちを免れない。墓穴の底に寝かされた遺体は、何本も用意された短い 木の板が斜めに敷き詰められて形成された三角形の空間の中に入るようにされ、その空間 は土で埋め尽くされることのないように配慮されている。 ところが、すべてのムスリムがその作法を熟知しているというわけでもなく、中にはひも が解かれないまま埋められてしまう遺体もある。「そんなことをしたら、おめえ、遺体が ポチョン幽霊になって出てくるぞ。」と俗説をのたまわるひとがいて、更にその俗説を信 じるひとまでいるのが、インドネシアのイスラム社会の一面だ。 ひもを解くのは、絶対にそうしなければならないというものでなく、そうするように勧め られているという理解になっているため、解くのを忘れた遺体は墓を掘り返してでもひも を解けと命ずるウラマにはめったにお目にかからない。そんなことを言うウラマはまとも なウラマでないということになるだろう。 ところが、2017年12月28日に南タングラン市チプタッ(Ciputat)のタマンアバデ ィ公共墓地に埋葬されたスヘンドラの墓穴が掘り返されているのを、翌朝、墓守が見つけ て騒ぎとなった。スヘンドラは無職で住む家もない貧困者であり、夜は墓地に近いムソラ で寝るのを習慣にしていた。金目の副葬品を狙った犯行でないのは明らかで、調べたとこ ろポチョンのひもがなくなっていることが判明したのである。[ 続く ]