「ボロブドゥル英語村(後)」(2018年01月16日)

ところが2007年に英語学校は開店休業を余儀なくされた。原因となった問題はいくつ
かあったが、中でもハニさんの金庫の中身が影を薄くしたのが最大の要因だ。資金稼ぎに
精出すためには、気持ちと時間を稼ぎ仕事に集中させなければならないのだから。そのこ
ろ、学習者はもう手一杯になっており、そして全員が無料だったのである。

「わたしゃ銭乞いをする気がない。かといって学習者に負担をかけるのも嫌だった。だか
ら自分のビジネスから確実に資金が獲得できるように努めた。そのビジネスから自分が手
を抜いても、英語学校の活動をサポートできるだけの稼ぎが確保できるようにビジネスを
整えた上で、2011年に英語学校を再開した。」


英語学校で使われている教育メソッドは、一般のフォーマル英語教育機関のものとは大き
く異なっている。英語の歌を使い、また身体の動きを多用する。たとえば動詞の16テン
スを教えるのに、手と指の動きが使われる。
「この学校は黒板を使わないし、文法規則を覚えさせるようなことをしない。考え考えし
ながら英語を話すようなことは、やめだ。勉強は楽しいものでなくちゃあ。」

ボロブドゥル英語村で学んでいる生徒のひとり、ナビラさん22歳のコメントはこうだ。

「語彙や文型は歌いながら覚えるんです。そのほうが早く記憶できますから。歌には簡単
な身振りが添えられて、学習意欲を盛り上げるようになっています。ほかの英語教育機関
で、こんなメソッドはどこにも目にすることができません。
授業時間中は英語以外の言葉を使うのが禁止されます。もしも生徒がうっかりインドネシ
ア語や地方語をしゃべったら、頬に色を塗られたりして。みんなゲーム感覚で楽しくやっ
ていますから、楽しく軽い感じで英語が身に着いていくんですよ。」


ボロブドゥル英語村は教育科目を増やし、更に村人のための学校から広く一般社会に開か
れた学校へと変身して行った。教員はいま8人いる。

たとえばパッケージプログラムのひとつに、6日間の観光教育パッケージがある。参加者
は6日間の英語教育を受けつつ、ガルゴゴンド村内のツアーをし、ラフティングを愉しみ、
チャンディボロブドゥルを見学する。

もっとインテンシブなプログラムは、10日間の英語学習プログラムがあるし、もっと長
期間を望む生徒は一カ月や一年間のプログラムを受けることもできる。

「いろんなひとがここの生徒になっている。中学高校生徒・大学生・大学教官・警官・軍
人・・・。かれらの目的もさまざまで、大学教官たちは海外で教育を受けたいと望んでい
るが、必要な英語力がまだ身に着いていない。」


ボロブドゥル英語村の諸活動が、ガルゴゴンドを既に観光村にする方向で実践されている。
生徒たちが滞在するのは村民が経営するホームステイであり、外来者が飲食するための食
事ワルンや雑貨店も村の中に増えている。

それどころか、貧しい村民の家庭の子供たちがボロブドゥル英語村で無料で英語を身に着
け、マグラン県下の学校に英語教員として職を得るケースも増加しているのである。ボロ
ブドゥル英語村は今や、年間に2千から2千5百人の卒業生を輩出する定評のある教育機
関のひとつになっている。

外国人観光客誘致の国家方針に草の根レベルでピタリと照準を合わせながら村興し活動を
促進しているボロブドゥル英語村は、全国各地の観光スポット周辺の村々にとって、貴重
な手本となっているにちがいない。[ 完 ]