「主食の変化が危険をもたらす」(2018年01月29日) サゴやサトイモから米への食生活変化が、西スマトラ州ムンタワイ諸島住民の病気への抵 抗力に影響をもたらしている。代謝性シンドロームや糖尿病などの非感染性疾患にかかる 住民が増加の一途をたどっていることが、それを雄弁に物語っている。 「非感染性疾患にかかるのは、ライフスタイルの変化が原因です。特に食生活の変化が大 きな原因になっています。」エイクマン分子生物学研究所の研究員はそうコメントした。 エイクマン分子生物学研究所とリサーチテクノロジー高等教育省の合同チームは、ムンタ ワイ諸島住民の遺伝子と遺伝子関連疾病を調査するために、ムンタワイ諸島に滞在中だ。 食事パターンの変化は腸内の微生物と細菌叢に影響を与え、それが身体の病気に対する抵 抗力を変化させることになる。「ミトコンドリアDNAのT16189Cのアルカリ度バ リエーションが糖尿病のリスクに関わっていることが判って来た。T16189Cが高い ほど、糖尿病のリスクも高まる。平均的インドネシア人はT16189Cのアルカリ度が 30〜40%だが、ニアス族は60%でもっとも高い。ムンタワイ族はこれから調査が行 われる。今回の調査はT16189Cを調べて、糖尿病のリスクを知るのが目的だ。」エ イクマンの遺伝子学専門家はそう述べている。 トゥアプジャッ村マパドゥガッ部落の11人が検査を受け、3人が平均より血圧が高く、 そしてふたりが高血圧症であると診断された。ムンタワイ諸島保健局長によれば、ムンタ ワイ諸島原住民の中にガン罹患者が出たことが報告されている由。高血圧は既にムンタワ イ諸島住民の十大疾患のひとつになっている。 糖尿病に罹患したムンタワイ住民はサゴとサトイモの主食を米に変えたひとたちだった。 マパドゥガッ部落のサルム・サワワラッさん74歳は、毎日米の飯を食べている。サトイ モは間食に食べるだけで、サゴはもうほとんど食べていないそうだ。 食生活に変化が起こったのは、1970年代に内陸部からマパドゥガッへ移住してからの ことだ。サルム・サワワラッさんは子供のころ、サトイモとサゴを主食にしていた。「そ のころは、サトイモやサゴを食べないと満腹感を感じなかった。今は米を食べないと満腹 にならないよ。」 エイクマン研究所研究員によれば、昔サゴを食べていたひとが米に替わると、満腹するた めに食べる量は顕著に増加するそうだ。サゴはグリセミック指数が低いため、米に比べて 消化が遅い。 グリセミック指数が70%超ときわめて高い米の飯は血糖値を高めるため、糖尿病患者に とってはよくない。サゴのグリセミック指数は20%前後、タロは50%前後だ。 サゴやサトイモから米飯への集団的な移行は過去の政府の政策ミスによるものである、と シンガポール南洋理工大学の調査機関EOSで働いているムンタワイ出身の人類学者ジュ ニアトル・トゥリウス氏は語る。米を食べる人間は頭が利口だという風評が流れたそうだ。 「だから今は、サゴやサトイモを食べるのも良いことなのだという啓蒙を行わなければな らない。要するに主食を米だけにせず、他の食物と組み合わせるバリエーション、特に伝 統的食物を見直すことが重要なのだ。」 健康面での問題だけでなく、ムンタワイの自然環境で容易に生育するサゴやサトイモを再 び採り上げることは、地元社会集団の食糧確保を助けるものになる。 「サトイモやサゴはこの土地で容易に育つから、栽培の世話をする必要がない。米の栽培 をしようものなら、たいへんなハードワークが必要になる。」サルム・サワワラッさんは そう明言した。