「ナシゴレン(3)」(2018年02月28日)

ナシゴレンには標準メニューなど存在しない。その言葉の語義である、炊いたり蒸して調
理されたコメを油で炒めたものなら、どんなものが混ぜられ、どんな味をしていようが、
それはナシゴレンなのだ。

ナシ(nasi)の語義は炊いたり蒸して調理されたコメつまり飯なのであり、ゴレン(goreng)
とは熱した油で調理することを意味している。油の量は定義されておらず、要は油を使っ
て食材を加熱する方法を指している。少量の油で炒める方法はトゥミス(tumis)という別
の言葉があり、多量の油の中に食材を沈めてしまうゴレンと区別できるようになってはい
るが、しかしながら、トゥミスもゴレンの概念に含まれるものであるため、単にゴレンと
いう言葉だけでは大カテゴリーのゴレンを意味しているのか、それとも小カテゴリーとし
てトゥミスでないゴレンを意味しているのかよくわからないという、厄介な構図になって
いる。

ともあれナシゴレンというのは、夜中に屋台を引いて住宅地を巡回する食べ物作り売り屋
台から、5星の高級ホテルレストランに至るまで、あらゆるレベルの階層にあらゆるレベ
ルの調理人が提供する、きわめて民主的で友愛精神に富んだメニューなのである。このメ
ニューはこうでなければならない、というドグマはナシゴレンに無縁のものなのだ。

インドネシアの各地には、それぞれ地元独特の風味を持つナシゴレンが存在し、その調子
でこの広大な国土が覆われていると言っても過言でないだろう。飯を油で炒める料理を持
っている国は世界中にたくさんあるが、インドネシアほどバラエティに富んでいる国は二
つとない、と料理専門家は言う。それは、存在する限りの調味料がナシゴレンに合うから
であり、世界最大のバリエーションを有するインドネシアのスパイスが生み出すナシゴレ
ンに太刀打ちできる国はまず見当たるまい。料理評論家のウイリアム・ウォンソ氏は、ル
ンダンの調味料さえナシゴレンに使える、と語っている。


そんなバリエーションに富むナシゴレンが全国各地から集まってくるジャカルタは、ナシ
ゴレン愛好家にとってのメッカなのである。全国各地の地元メニューを看板に出している
食堂やレストランでナシゴレンを供してくれるかどうか、話のタネに尋ねてみればよい。
メニューになくとも、「作っていいよ」と言ってもらえればもうけものだ。

そればかりか、外国料理店の中にも、その国の炒めご飯を出すところさえある。アラブに
もインドにも、炒めご飯のメニューはあるのだから、ジャカルタに住むというのは舌を肥
やす絶好のチャンスなのである。アラブレストランやインドレストランを敬遠ばかりして
いないで、是非話のタネに体験することをお勧めしたい。辛いのがダメなら、辛くないの
にしてくれと頼めばよい。西洋人はたいてい、そのような注文を最初にしている。こうい
った食べ物のメニューに関するかぎり、客が店側の言いなりに従う必要などまったくない
のだ。

店員が客の言うことを聞いてくれないなら、いったん座った椅子からまた立ち上がるだけ
の話なのである。[ 続く ]