「ナシゴレン(4)」(2018年03月01日)

作家オマル・カヤム氏は「ナシゴレン理論」と題する小論の中で、家庭でのおいしいナシ
ゴレンの作り方を指南した。油は他のおかずを作ったあとのものを使い、バターなどは使
わないようにせよ、とかれは言う。他のおかずに使った油が、種々の食材をよりたくさん
通っているほど、その油で作るナシゴレンは美味になるそうだ。

各家庭ごとに調理の傾向は異なっており、それがナシゴレンにも反映されて、その家のナ
シゴレンの味が生まれるのが一番自然なあり方だとかれは主張しているのである。要はそ
の家でのおかず作りとナシゴレンの味覚の同期が、我が家のナシゴレンの味を生むという
ことだ。

その我が家のナシゴレンの味覚は、必ずしも日本語の「おふくろの味」とフィットしない
から、誤解してはならないだろう。おふくろが手ずから作って子供たちに食べさせるのが
「おふくろの味」だとすれば、大家族制の台所にはニ三世代の女たちが集まって共同作業
しているのだから、そんなものは成り立ちにくい話になってしまう。さもなければ中流家
庭には家庭プンバントゥがいて、料理の主軸をかの女が握っているのだから、これもおふ
くろの味にはなりにくいにちがいない。


ナシゴレンは朝昼晩夜食のいつ食べようが、不自然さはかけらもない。元々は中国人が前
日の夕食に作った豪華な食事の残りものを、翌朝熱しなおして食べたことに由来している
そうで、その伝で行くなら朝食が普通だったのだろう。だがそれは太古の話だ。

食堂に入って注文に迷ったら、ナシゴレンを頼めというアドバイスがある。ただし辛いも
のが怖いからナシゴレンを、というアイデアにはリスクがある。ナシゴレンのバリエーシ
ョンの中にナシゴレンチャベというものがあるから、インドネシアの食堂でナシゴレンを
チャーハンや焼き飯と同一視するのはアブナイ。やはり注文時に「辛くないものにしてく
れ」と頼むべきだろう。


インドネシアの全国各地に地元のナシゴレンがあるように、世界各国にもその国で一般的
な調味料と食材を使ったナシゴレンがある、とウイリアム・ウォンソ氏は説明している。

中国はニンニクと醤油味が一般的で、もし色が赤茶っぽければホイシンソースが使われて
いる。海??の広東語読みがホイシンで、海鮮の文字に反してこれはベジタリアンソース
なのだそうだ。日本のものはシンプルで、ニンニク・卵・日本醤油の味付けになっている。
タイは細切れパイナップルとレモングラスが混ぜられ、ベトナムはノニフルーツの若葉の
みじん切りがウコン・エシャロット・ニンニクと一緒に調味料の中に混ぜられる。

インドネシアでは、地方によって味わいは千変万化する。ケチャップマニスを使った甘い
ものがインドネシアのナシゴレンの特徴だと思っている外国人が少なからずいるようだが、
それはジャワ料理に一般的な特徴であり、インドネシア全土に敷衍しては井の中の蛙にな
る。甘い味のジャワ料理を好まないインドネシア人もたくさんいるから、その把握のしか
たは正しくない。[ 続く ]