「パサルクナリ(後)」(2018年03月06日) パサルクナリの三購買中心に首都圏各地から消費者が集まってくる理由は、やはり値段の 廉さだ。南ジャカルタ市クバヨランラマに住む消費者のひとりは、これまでたいていクバ ヨランバルのブロッケム(Blok M)に近いパンリマポリム(Panglima Polim)で買い物してい た、と語る。 「ここへはじめて来たんだけど、さすが値段は廉いわ。25%くらい違うね。」 パサルスネン地区に住む消費者は、買物の必要が生じたら必ずここへ来る、と言う。 「商品バリエーションがとても豊富で、気に入った商品の価格比較までできる。他の場所 で探すと、みんなが持っているのと同じような品物をただ値段を比べるだけになってしま う。」 パサルクナリの価格は、首都圏のどこよりも廉いと太鼓判を捺す消費者もいるくらいだ。 新旧のパサルクナリにしろ、プラザクナリマスにしろ、市場自体は日曜日でも?開いている。 だがさすがに、日曜日に売場や店舗を開く店は少ないということなのである。パサルクナ リは営業時間が8〜17時。プラザクナリマスは21時まで営業しているが、17時18 時ごろになると閉店する店舗もちらほらと見受けられる。 クナリというのは木の名前だ。このクナリ町にどうしてその名が付けられたのか。ブタウ ィ郷土史研究家ザエヌディン氏によれば、昔このクナリ町一帯にはクナリの木があふれん ばかりに生えていたそうだ。 木の幹は直径70cmくらいで直立し、高さは4〜5mから最高20mに達する。この木 の実はbuah kenari (canarium nut)と呼ばれ、硬い殻と種の間に油脂とタンパク質の豊富 な果肉があって、食用や絞った油にして利用されている。アーモンドの代用に使われるこ ともある。 この木はインドネシア〜マレーシア〜フィリピン〜パプアニューギニア〜北部オーストラ リアが原生分布地で、インドネシアではマルクをメインにして、ジャワ島はカゲアン〜バ ウェアン諸島、フローレス、ティモール、ウエタン、タニンバル、スラウェシなどに分布 している。 インドネシアの歌曲愛好者なら、マルク民謡Waktu hujan sore-soreの歌詞にある「kilat sambar pohon kenari」という言葉をきっと思い出すだろう。このpohon kenariに対応す る英語はcanary treeとなっており、学名もcanariumとされている。だからいかにもその 両者は密接につながっているように見える。 ところで日本人なら、カナリーという言葉から鳥のカナリアを連想しないだろうか?鳥の カナリアも、英語はcanary birdになっていて、おまけにインドネシア語までもがburung kenariと称している。 そうなってくると、カナリアも東南アジア原産かとついつい想像してしまうのだが、 canary birdの名は原産地の大西洋カナリー諸島に由来しているのである。canary tree は音の似たpohon kenariに引きずられ、burung kenariもpohonで使われた類似音のcanary に引きずられたという奇妙な符号が感じられるのだが、本当のところはどうなっていたの だろうか?これもきっと、面白い謎のひとつだろう。[ 完 ]