「また、オンライン運送事業(前)」(2018年04月09日)

「オンラインタクシーに乗ったら、運転者と親しそうに会話するのはやめて、読書やスマ
ホをいじくるのに専念したほうがいい。運転者は数年前に体験した古き良き時代が今くず
れかかっていることをだれかれかまわず愚痴りたがっているのだから、そんな話を聞かさ
れて暗い気持ちになっても精神衛生上有害なばかりだよ。」友人のひとりがそうアグス氏
に語ったそうだ。

オンラインタクシーやオンラインオジェッが始まったころ、運転者の数はまだまだ少なか
った。ところが、その仕事の実入りが良いことが立証されるにつれて、オンラインタクシ
ーやオジェッ運営会社のパートナーになりたい者が続々とこの仕事に就くようになった。

おかげで運営会社はどんどん門戸を広げ、人選などないに等しい対応がなされるようにな
り、運転者間の競争は深刻な状態に陥った。

おまけに運営会社間の競争が激化したことで、運営会社は料金タリフを引き下げはじめた。
おかげで運転者にとってはダブルパンチを食らったも同然。


その状況を怒ったオンラインオジェッ運転者たちが18年3月27日にモナスの西ムルデ
カ通りを埋め尽くして通行不能にし、デモ隊代表者が大統領と掛け合った。政府がタリフ
の最高と最低金額を定めて、運営会社が勝手に安売りできないようにしてくれ、という要
請だ。更に3月28日にはオンラインタクシー運転者がデモを繰り返して追い討ちをかけ
た。

しかし法的基本構造に照らして、そこにはたいへんな不都合が存在していたことを、だれ
もが知っていたはずだ。このオンラインアプリを使って四輪二輪自家用車オーナーに運送
事業を行わせるという仕組みをバックアップする法体制がまだ作られていないのである。

道路運送と交通に関する2009年法律第22号では、オンラインタクシーとオンライン
オジェッが行っているシステムは認められないことになっている。法律が否定している事
業をなんとか辻褄を合わせて対応している行政にもっと深入りせよと求めるのは、下手を
すると身の破滅になりかねない。


在来型タクシー事業は行政の監督下に営まれているが、オジェッは民衆のアルバイト稼ぎ
という位置付けから、国家行政はその行為自体に統制をこれまでかけたことがない。行な
われていたのはせいぜい、地方自治体の指導程度のことになる。オンラインオジェッ産業
がオンラインタクシー産業よりスムースに発展したのは、そんな基本構造のゆえだ。

一方オンラインタクシーが徹底的に既存タクシー産業から敵視と反感を浴びて、運転手た
ちによる再三のリンチ騒ぎが起こったのも、そこに存在した基本構造のゆえだった。既存
タクシー業界の立場に立って考えてみればわかるだろう。法律で認められていない産業が
行政の監督を骨抜きにして野放図な商売敵として出現したなら、これほど理不尽なことは
あるまい。

おまけにインドネシアの消費者たちはオンラインアプリを使った極めて効率よく簡便なこ
のシステムに即座に飛びつき、一大需要を作り出したのだから。膨らんだ市場が供給を促
し、供給が膨らみ過ぎて次は供給面での淘汰が起こる段階に入っているのである。
[ 続く ]