「ナシカパウ」(2018年04月20日)

パダン料理(masakan Padang)の範疇に属さないとされている地元料理がミナンカバウにあ
る。パダンレストランではおかずをショーケースの中に置き、客が注文しなくても料理を
皿に盛ってテーブルに運んでくる。店側は客が食べた分だけ支払いを請求するという方式
だ。

ケチな客がいて、肉野菜のおかずに手を着けるのを極力減らし、不足分は汁もの料理の汁
だけすくって飯にかけて食べるという、涙ぐましい努力をした。汁だけだと請求のしよう
がないというのが店側の原則らしく、ケチ作戦は成功したらしいのだが、反対に店員に顔
を覚えられて、街中で出会うと毛嫌いされたという話がある。


時計塔ジャムガダン(Jam Gadang)で有名なブキッティンギ(Bukittinggi)市との境界から
ほんの5〜6キロしか離れていない隣のアガム(Agam)県のカパウ(Kapau)村に、ナシカパ
ウ(nasi kapau)と呼ばれる郷土料理がある。ナシカパウ商売は必然的に大勢の人間がいる
ブキッティンギ市で店開きするようになるから、あたかもブキッティンギ市がナシカパウ
のセンターのようになってしまった。

ジャムガダンのある広場の北側にあるパサルアタス(Pasar Atas)と丘を下って降りた下の
パサルバワ(Pasar Bawah)にもワルンナシカパウがあり、食事時には客が列をなす。ナシ
カパウはテーブル上に料理の入った皿やバットを敷き詰め、客が選ぶ料理を飯の載った皿
や防水処理された食品包装紙に置いていくという方式を採る。

カパウ村のひとびとは一般のミナンカバウ族と異なる種族らしく、伝統文化も異なり、料
理の味付けにも違いがある。つまり通常のパダン料理とは一味異なっているということの
ようだ。

カパウ人は先祖伝来受け継がれてきた料理の味付けが、ミナン人一般に決して劣るもので
なく、かえってこっちのほうが美味だという自負を抱いている。カパウ料理のベーシック
なものはサユルグライナンカ(sayur gulai nangka)で、カパウ料理のおかず類は概して酸
味があり、それが口中の鮮度を保ってくれる。


ワルンナシカパウの女性店主は、パダン料理店の料理人はひとつのものでさまざまな料理
を作っているが、カパウ料理は違う、と言う。ひとつのものと言うのは、たとえば料理の
加熱はひとつのガスコンロですべてのメニューを作るし、ココナツミルクもひとつの濃さ
のものを用意したら、ココナツミルクを混ぜる料理にはそれ一種類だけを使っている、と
いう意味だ。

カパウでは、コンロをガスやら薪の燃料別にし、また薪のものでも強火・弱火・熾火など
火力の違うものを用意しており、自分の台所ではコンロが9種類使われていると語る。コ
コナツミルクも料理ごとに適した濃度のものを数種類使っているそうだ。

そうした料理人の努力が味に反映される。ナシカパウの通にもなると、料理の匂いを嗅い
だだけで、真のナシカパウかどうかがわかるらしい。同じ料理でも、カパウ料理とパダン
料理ではカパウのほうが高い。多少高くとも・・・とワルンナシカパウに人が集まるのは、
やはり味の良さということの裏付けをそれが示しているようだ。