「1千万の中国人肉体労働者(1)」(2018年05月08日)

中国人労働者1千万人がインドネシア国内に来て働いており、インドネシア国民の職を奪
っているという流言がソーシャルメディアに飛び交っていて、政府は外国人就労者の取締
りを厳重に行う意向であることを表明した。

この流言に時を合わせるかのように、オンブズマンが2017年6〜12月にジャカルタ
・西ジャワ・バンテン・東南スラウェシ・西パプア・北スマトラ・リアウ島嶼の7州で行
った現場視察報告が公表され、非熟練労働者が大半を占めている中国人労働者が毎日毎日
大量にインドネシア国内に入ってきている、という表現でセンセーションを巻き起こした。

オンブズマンコミッショナーの報告によれば、中国人労働者はエネルギー関連やインフラ
建設の作業現場で働いており、そのプロジェクトは言うまでもなく中国が請け負っている
もので、おまけに中国人労働者は現場作業を行う肉体労働者であって、しかも同じ業務に
就いていてもインドネシア人よりも高い賃金を得ており、現場でトラックを運転している
者たちが全員中国人だったところもあるとのこと。スカルノハッタ空港から東南スラウェ
シ州クンダリに向かう朝のフライトは、ライオンエアーもバティックエアーも8割がたが
中国人乗客だった由。

外国からの直接投資が増え、一方で政府借入も増加し、大車輪のインフラ建設で経済効率
の向上が進展しているのはよしとしても、その裏側に労働侵略がへばりついているのはど
ういうことか、というのがオンブズマンの論旨のようだ。


外国人就労許認可に関する法制度上で、外国人肉体労働者への就労許可はありえない話で
あり、それらが違法就労であるのは疑いもない。オンブズマンコミッショナーは中国人不
法就労者が増加していると述べているものの、客観的に数字で測定できない主張は国民の
不安を掻き立てることにしかならないだろう。

この種の議論が巻き起こるたびに政府は交付した労働許可の数を持ち出して、そんな数の
中国人はインドネシア国内で働いていないと否定するのだが、その議論は完璧なすれ違い
論議であって、これまでがっぷりと四つに組んでの議論がなされたことがない。言うまで
もなく不法就労者の統計など誰にも集めようがないから、しょせんは幽霊との相撲になっ
てしまうしかないのだが。

オンブズマンの報告は一般庶民のホウクスとはわけが違う、という姿勢で国会第9委員会
は政府の釈明を求めて労働大臣を国会に呼びつけている。国会が問題視してくれば、行政
は対応に着手せざるを得ず、しかしこれまで行われてきた不法就労に対する監視や取締り
のどこをどうすれば抜本対策になるのか、それが簡単に解ればオンブズマンがあのような
報告を出してくる状況にはならなかったはずだから、オンブズマンが発見したものを後追
いで取締り、さらに就労許認可を得ている外国人にも監視を強めて違反行為をほじくり返
すようなことにしかならないだろう。結局は、昔通った道を往還するということになりそ
うだ。[ 続く ]