「1千万の中国人肉体労働者(終)」(2018年05月09日)
一方政府側は、ソーシャルメディアで盛り上がっている中国人肉体労働者1千万人の話は
ホウクスであり、そのようなものを政治問題にしないようにしてほしい、と表明した。

言うまでもなく、2019年の大統領選挙に出馬が確定している現職大統領に対して信頼
感失墜を狙ったホウクスがこれであるのは明らかだ。イスラム教徒が国民の、ひいては選
挙民のメインを占めるインドネシアで、共産主義はイスラムの敵である。共産党の非合法
化がいまだに継続していて、それが解除される兆候はなく、共産主義が大修正の必要な疑
似おとぎ話として見捨てられかかっている世界の実情からインドネシアはまだまだ遠く離
れた地点におり、紅の脅威はいまだに現実のものになっていて、単なる信仰とイデオロギ
ー観念の対立を超えて国家政治体制の中に植え付けられている。

中国は共産党の一党独裁国家であり、中国人イコール共産主義者というイメージは強く保
持されている。前回の大統領選挙キャンペーンの際に対立候補側が流した、ジョコウィは
中国の血が混じっているというブラックキャンペーンはそのポイントを衝いたものであり、
再びジョコウィが親中国で容共であるというイメージ作りが開始されていることが、この
ホウクスから見て取れる。

反ジョコウィ派のアンチイメージ作りがどこを目指しているかと言うと、ジョコウィが親
中であり容共であることは、つまりイスラムの敵であり、国賊だというロジックに向かう。
個人個人の論理思考でなく、感情に流され、世間の声を鵜呑みにする国民性が、そのホウ
クスで煽られる。その実態は前回のジャカルタ都知事選で既にわれわれが目にした通りだ。
反ジョコウィ勢力がアホッ都知事再選を覆した戦略がやはり次の大統領選にも再利用され
るように思われる。

ともあれ、中国政府の現場作業者送り込み政策がインドネシア政府の掲げている建前の裏
側に潜伏して行われているとするなら、現政権の中に中国の意向を担ぐ者が存在している
ことを思わせる。たとえそうであったとしても、そのようなことを一言で悪と決めつける
ことも難しいだろう。

なにしろ17世紀前半にヤン・ピーテルスゾーン・クーンがバタヴィア建設の担い手とし
て中国人労働者に白羽の矢を立てた事実は消えないのだから。いかにしてサボり、仕事の
手を抜いて雇い主の鼻を明かし、報酬だけは確実に手に入れようとするのがプリブミであ
る、という評価が既に過去のものになってしまったかどうか、それは作業現場を監督して
いる人たちがもっともよく知っているに違いないのではあるまいか。

それに加えて、工期を日程計画通りに仕上げさせることが使命の監督職に就かされた者が、
不法就労中国人を全員国外追放せよと言われたとき、そんなことをされたら工期は守れな
いというコントラクターの声に接して、どのような態度を取るのかということもひとつの
見ものであるかもしれない。[ 完 ]