「ジャカトラ通り(10)」(2018年05月25日)

バンテンにしろマタラムにしろ、王族貴族の中に不平分子は事欠かない。折々のメインス
トリームから排除されたひとびとが、今の支配者に取って代わることを念願するのは自然
なことだ。だがジャワ島内の王宮はいずこも、バタヴィアのVOCが後ろ盾になっている。

今の支配者を倒すためには、もう一段上に上がってバタヴィアVOCを同時に潰滅させな
ければ、目論見は成功しない。もう一段上の立場で全方面の闘争を統括する人間が必要に
なってくる。それぞれが自己中心的に行動するプリブミをまとめるにふさわしいその人間
がピーテルだとかれらは見たのである。

ジャワ島にいるすべてのヨーロッパ人を皆殺しにしてバタヴィアVOCを壊滅させ、その
傀儡としてバックアップされているプリブミ王朝も全廃させる。ピーテルを首魁とするプ
リブミの王道楽土を作ることが、かれらの目標に置かれた。


 ピーテルをビンハミッビンアブドゥルシェイクアルイスラム(Bin Hamid bin Abdul Syeikh 
al Islam)なる称号のジャワ島の統領として担ぎ、バンテン・マタラム・チレボンなどの諸
王国のスルタンに反主流派のリーダーがとって替わるというこの構想の肉付けを行ったラ
デン・アテン・カルタドリヤ(Raden Ateng Kartadriya)がピーテルの懐刀として一斉蜂起
の準備を進めた。

一説ではスナン・カリジャガの血を引く中部ジャワ出身のカルタドリヤだが、別の説によ
ればバンテンスルタン国の王族だとなっている。ともあれかれは各地の不平分子と連絡を
取るとともに、バタヴィアVOC軍の一部をなしているプリブミ部隊をも一斉蜂起に巻き
込むべく動いた。かれが集めた戦力と同志のマジャ・プラガ、ライジャガ、アンサ・ティ
ストラ、ハジ・アバス、ワンサ・スタたちの軍勢を合計すると1万7千人になる。ピーテ
ルは自分の金を1万7千人に軍資金として分配させたが、それで金蔵が寂しくなるような
かれの財力ではなかった。


蜂起計画は既に出来上がっていた。大晦日の夜が過ぎて元旦の夜明けを期に、バタヴィア
城市に討ち入って、オランダ人や他のヨーロッパ人を皆殺しにするのである。大晦日の夜
には、オランダ人たちはパーティで底抜けに愉しみ、酒を飲んで酔っ払い、明け方になっ
て床に就く。そこが付け目だ。城市の大門とカスティルの門も明け方には内側から開かれ
る手はずが整えられている。

ところがこの緻密に練り上げられた蜂起が失敗してしまった。事前に情報が洩れて、蜂起
の直前に首謀者たちが全員逮捕されてしまうのである。情報がどのようにして洩れたのか
については、いくつかの説がある。[ 続く ]