「オケラ手口」(2018年05月30日) 壁に穴をあけて建物内に侵入する泥棒の手口をインドネシアではmenggangsirと言う。 gangsir とはオケラ虫(英語名はモグラコオロギ)のことで、地中に穴を掘って暮らす生 態にちなみ、オケラのようなことをするという意味でmenggangsirと名付けられたらしい。 地面を掘って地下道を作り、目的地の床を破って侵入すれば文字通りのオケラ手口なのだ が、労力を惜しんで壁にそのまま穴をあけ、そこから潜り込む方法をもインドネシア人は オケラ手口と言うようだ。どうやら侵入盗の手口の中の穴あけスタイルがその言葉に結び 付けられた結果であるにちがいない。庭で捕まえたオケラくんの表情にも、迷惑そうな風 情が漂っていた。 もちろん侵入するばかりでなく、刑務所や拘置所から建物に穴をあけて脱走するときにも menggangsir は用いられる。ともかく穴をあけて無法なことをするのに名前が使われたオ ケラくんにとってはいい迷惑だったにちがいない。 そのガンシル手口を本領とする一味が首都警察に捕まった。四人組のこの一味は2018 年2月から4月までの間に少なくとも三軒のブカシやデポッにある質店に侵入して総額1 9億ルピア相当の稼ぎをあげていた。 首都警察一般犯罪捜査局が一味を割り出してデポッ市内数カ所の一味の住居に乗り込んだ 時、首領格の男は逃走しようとしたために捜査員に射殺された。他の三人は逮捕されて取 調べを受けているが、その話から軍人がひとりその一味に関与していることが判明したた め、捜査が続けられている。 一味がターゲットにしたのは込み合った住宅街にある質店で、質店と壁を接しているルコ (rumah toko = 住宅店舗)や商店を借りてかれらはまず果物屋のような商売を行う。そう やって堅気の商売を行っているように見せかけながら、密かに壁を破る道具を運び込むの である。ドライバーや手動・電動ドリル、金てこから、果ては溶接機材にボンベまでが運 び込まれた。補助機材としてアルミはしごと縄ばしご、おまけに実包が10発入った手製 ピストルも警察は一味の家で発見している。 一味の自供によれば、決行日の21時ごろから借家の壁崩しが開始される。それほどの時 間がかかることもなく、人間が潜り抜けられる程度の穴がこちら側の壁と質店の壁を結ん で開かれる。電動ドリルを使うのは壁が固いとき、溶接機が使われるのは壁の中に鉄筋が ある場合だけに限られ、騒音に対する配慮は人一倍のものがある。 もし不幸にしてそれらの機材を使わなければならなくなった場合は、ダンドゥッ音楽を流 して騒音をカバーさせることをする。人間がひとり通れる程度の穴がほどなく開かれたら、 一味はひとりずつ質店の中に潜入し、まず監視カメラを破壊する。そして金庫や倉庫をこ じ開けて質草のノートパソコンやスマホあるいは宝石装身具類を奪い、深夜の内に脱出し て行方をくらます。 盗品を売り払ったあとは収入を全員で分配する。あるときの仕事では3千7百万ルピアが 自分の分け前だった、と一味の一人は語っている。その男は普段、タナアバン市場で荷物 運び人足をしていたそうだ。