「高官を襲ったのが運の尽き(前)」(2018年07月09日)

国民住宅公共事業省建設育成総局長は2018年6月25日午前8時ごろ、西ジャカルタ
市歴史博物館周辺でサイクリングしていた。そのとき、ノーヘル運転者の一人乗りしてい
るオートバイ二台が両側から自転車を挟み込み、総局長の腰に巻かれているウエストポー
チを強奪しようとした。総局長はそれを防ごうとして強奪者の手をつかんだが、オートバ
イがスピードを上げたために引きずられて横転し、総局長は左肩を骨折する重傷を負った。

この事件を重く見た首都警察は、全力をあげてひったくり犯を摘発するべく動き出した。
専従捜査チームが編成されて24時間活動を開始し、被害者と目撃者からの証言や犯行現
場近辺を記録していた防犯カメラの画像などを調べ上げた結果、27日には犯人像がほぼ
確定したとして容疑者の拾い出しにかかった。

容疑者を絞り込んで行った捜査チームは6月29日午前2時ごろ、北ジャカルタ市でふた
りの男を逮捕した。そのうちのひとりは捜査員を攻撃したため、反対に射殺された。こう
して残ったひとりへの取調べが行われ、その証言から奪われた総局長の私物が発見された
ことで、その男が間違いなく犯人であることを立証できる証拠品が揃うことになった。
その一方で、犯人の証言から驚愕すべき事実が明らかになっていったのである。

オートバイによるひったくり犯罪を行いやすい場所が都内随所に散在している。地理的属
性を考慮しながらそれらの場所をエリア別に区分けし、定められたテリトリーに犯罪実行
グループを配置する。各グループは毎日自分の居所から北ジャカルタ市プンジャリガン郡
トゥルッゴンに設けられた本部に集結する。そこにはオレンジ色のテントが張られており、
このシンジケートに属す者たちはオレンジテント(Tanda Oranye)を自分たちの通称に使
っていた。

毎日ボスは犯行部隊を謁見し、その後一味はそれぞれが自分のテリトリーへと出かけて行
く。そして夜になるころ、全員がまたオレンジテントに戻って来て、その日の稼ぎをボス
に提出する。その驚嘆するような形態による犯罪ビジネスが行われていることを、警察は
そのときはじめて知ったのである。

この前代未聞の組織化されたひったくりシンジケートを壊滅させる大作戦が即座に開始さ
れた。このシンジケートは前科者が大勢含まれており、かれらは真昼間に衆目の眼前でひ
ったくり行為を行い、抵抗する被害者が無事では済まなくなるような仕打ちを容赦なく行
って逃走するという、都民の安全感を踏みにじる存在である点が首都警察上層部の逆鱗に
触れたようだ。壊滅作戦に当たって首都警察長官は、反抗してくるシンジケートメンバー
は射殺して構わない、との檄を捜査員たちに飛ばした。[ 続く ]