「暴力犯罪社会の常識(後)」(2018年07月13日)

別の場でインドネシア大学犯罪学者もその見解を肯定した。家庭・学校・地域などの環境
が若者層の社会解体を引き起こしている一方、政府はそれへの対応を取っていない。どこ
からも適切な関心を与えられない若者たちは、ナルコバに流れて行く。
「犯罪の激化は街中の社会生活の場を取り締まる警察要員の数が不足していることから来
ている。ルバラン帰省と逆流の時期は、犯罪が少なかった。それはいたるところに警官が
いたからだ。
その時期が過ぎて警官の姿が路上に見当たらなくなっているのが昨今であり、それに合わ
せてひったくり事件が増加した。チュンパカプティやタングランで起こった、ひったくり
や二輪車窃盗で被害者が殺された事件は、目的遂行のために犯人が万難を排そうとしてい
る精神状態を示している。
警察がかれらにハードアプローチをかけるのは、警察要員の数不足をカバーするための戦
略だ。それによって犯罪者の精神状態に対する抑止力が生まれる。」

首都警察長官の檄もその戦略に則ったものだったにちがいない。インドネシアの社会とひ
とびとはそのような構造の文化によって動いている。その中に置かれた射殺行為だけを取
り出して云々するのは、木を見て山を見ない行為に当たるのではあるまいか。死刑という
制度についても、同じことが言えるようにわたしには思える。

首都警察広報部長は、今回の路上犯罪粛正キャンペーンで街中に安全感が強まることを期
待している、と言う。だが都民はそれに安心するのでなく、犯罪者に隙を見せない日常行
動を身に着けるよう期待されている。「他人から簡単にひったくられるようなバッグの持
ち方をせず、また自分のスマートフォンも狙われているのだ、という意識を欠かさないこ
とだ。」

警察はこの社会が暴力犯罪社会・不安全社会であることを自覚して行動せよと国民に警告
しているのである。


警察のハードアプローチは、犯罪者の精神性にそれなりの効果をもたらしている。チュン
パカプティでオンラインオジェッに乗っていた被害者女性を死に至らしめたひったくり犯
は、警察の捜査で身元が割り出され、自宅に踏み込まれた。27歳の犯人は身をかわして
逃げたが、警察が路上犯罪粛正キャンペーンを開始したことを知っており、結局は逃げき
れないと考えて自首して出た。

この男は普段から乗合バスの運転手を職業にしているが、ストランが足りないときにそれ
を補うため、これまでもあちこちの場所でひったくりを8回行っていた。職に就いている
から堅気の人間であり、だから犯罪者にはならない、という常識はインドネシアで通用し
ない。[ 完 ]