「警察の人気が急上昇(前)」(2018年07月16日) 国家警察はかつて、国軍の一部門だった。陸海空軍という花形の陰に置かれて、みそっか す扱いされた時期もある。1999年になって、国家警察として軍の統括から離れ、大統 領直属機関となった。軍隊と同じ階級区分が長期間にわたって続けられてきたことから、 国家警察となったあとも、名称こそ変更されたものの、軍隊と同じような階級区分は依然 として継続されており、これほどたくさんの階級区分を擁している警察が世界にどれほど あるのか、わたしは知らない。 その一方で、警察の中に国軍が持っているメンタリティは滔々と流れ込んでいたから、一 般市民が軍人を怖れる気分は警察員にも向けられ、警察との関りを忌避する傾向は長期に 渡って続いて来た。 かつてインドネシアに広域暴力組織は存在せず、それぞれの町に親分がいて、縄張りを巡 って角突き合わせる傾向が強かった。ボスともなるほどの人間は他人の下風に立つのを強 く嫌うという精神傾向のなせる業にちがいない。 そんな中で、国が組織化した軍隊こそが全国規模の広域暴力団によく似た存在たり得たの も、軍隊(つまりは軍人)が持っているコワモテ要素がもたらしたものだろう。 街中で車を運転中に軍用トラックのキャラバンがやってくれば、近寄らないのが無難だっ た。彼らは傍若無人の運転を行い、接触したり当てられたりしても、知らぬ顔で走り去っ てしまう。被害者は泣き寝入りが普通で、相手が親切心を示してくれないかぎり、何も言 えなかった。喧嘩すると、武器を持っているかれらに何をされるかわからないからだ。 大渋滞の中でも、自分を先に通すのが当たり前という態度でかかってくる。昔はコンパス 紙への投書にも、その種の被害を被った市民からの苦情がしばしば登場した。事は買い物 にまで及び、道端商人などは軍人に値切られて損して売らされるという状況も頻発してい たそうだ。その傾向はたいていのビジネスに波及し、軍人を用心棒に雇うことも行われ、 商売敵に用心棒を差し向けるビジネスマンも稀ではなかったらしい。 昔聞いた話の中にこんなものもある。保険金を請求しようとして保険屋の事務所を訪れる と、中に軍人がいて来意を尋ね、「金を払ってもらいに来た」と説明したところその軍人 はやおら引出しからピストルを出して机に置き、「帰れ」と一声言ったそうだ。 今はごろつきややくざ者という意味で使われているプレマン(preman)という語が、50年 くらい昔は私服の軍人や警官を指して使われていた。語源の話とは別に、わたしはその流 れにひとつの軸が存在しているように感じている。[ 続く ]