「ワニ3百匹虐殺事件を見る(後)」(2018年07月24日)

暴徒たちは養殖施設内に侵入すると、一対の親ワニと290匹の子ワニをひとつ残さず惨
殺し、体長がまだ10センチ程度の赤ちゃんワニもすべて掠奪して持ち帰った。子ワニと
はいえ、体長が2メートル近いものもたくさん混じっていたそうだ。それだけに飽き足ら
ず、暴徒は警備員ポストや他の会社施設まで破壊してから帰って行った。

この事件を、進入禁止場所を故意に冒して遭難した住民の自業自得と、そんな仲間の死を
エゴセントリックな解釈から恨み、暴徒を煽って復讐を行った地元集団の得手勝手な行為
と見ることも可能ではある。だが、4百人もの人間がそこまで単純な精神であるとする人
間観に不審を抱くのは、わたしだけではあるまい。その種の観念論を好む人間がいるのも
確かだが、それは精神の成熟と根をひとつにするものであるように思えて仕方ない。

住民側は警察に対し、ミトラレスタリアバディ社の責任を問う死亡事件の届出を提出した。
一方、ミトラレスタリアバディ社も警察に対し、住民が行った暴動行為を非難する届出を
提出した。警察はその両者間の調停を図り、最終的にミトラレスタリアバディ社が死亡し
たスギトの遺族に見舞金を払うことで両者間の合意が成り、両者ともに警察に出した届出
は引っ込めた。

地元警察はそれで良かったのかもしれないが、国家警察中央本部がそれで済ませるわけが
ない。暴動行為、個人資産に対する破壊行為、保護動物に対する殺害行為などを法的にう
やむやなものにして終わらせることなど現代警察にとってできるものではないのだから。


この事件の捜査はまだ続けられることになるだろうが、ワニの商業用養殖事業認可を交付
した森林生活環境省下部機関の西パプア州天然資源保存総館は、ミトラレスタリアバディ
社に対する事業認可を凍結すると言明した。ミトラレスタリアバディ社はこの降ってわい
たような踏んだり蹴ったりの災難を甘受するしかない。同社にとっては、現在の認可がこ
の年末に失効すればその延長はまず不可能であり、事業継続するなら更に奥地に移転する
よう求められるにちがいあるまい。

近隣住民が行った暴動行為を復讐という感情論に集束させるか、それとも政府と実業者が
行っている住民無視の危険な行為に対する社会的反抗と見るか、それは暴徒の中にローカ
ル有力者の顔が見られたという証言がその答えを物語っているようにわたしには思われる
のである。[ 完 ]