「スパイスで味道楽(前)」(2018年07月30日)

クチョンブラン(kecombrang)の人気が数年前からうなぎのぼりだ。インドネシアでカン
タン(kantan)やホンジェ(honje)などの地方名称を持ち、日本語ではトーチジンジャーと
呼ばれ、英語ではEtlingera elatiorと書かれるが、これは学名でもある。

かつてこのスパイスの需要は小さかったが、どんどん使われるようになってきた。どうや
ら、強いスパイスが好まれる時代に入りつつあるようだ。レストランや食堂では、供され
るサンバルの多様化が起こっている。食材自体のうまみとこくへの傾倒が、スパイスによ
る味覚のバリエーションに浸食されつつあるように見える。

スパイスを使う料理メニューを検索サイトで探すと、何千件もヒットする。中にはクチョ
ンブランを使うメニューを750種も集めたサイトが出現した。ずっと昔の昔である植民
地時代には、ヌサンタラの料理はスパイスを利かせたものが標準だった。何しろヨーロッ
パ人が憧れたスパイスアイランドで、スパイスを愉しまないという法はない。原住民自身
ですら、あふれんばかりに豊潤なスパイスの使用を控えめにしようなどと考えるはずがな
いではないか。


そんな時代を通り過ぎた後、スパイスの使用量は減退し、食材の味覚を楽しむ時代へと移
った観があったものの、今ここにきて再びスパイスの再起が始まったようだ。

もちろん、単一の味覚はヌサンタラのものでない。スパイスの使用が控えめになった時代
でさえ、豊富なスパイス類は常に混ぜ合わされて複雑な味覚を舌に送り込んできた。その
スパイスが強さを増し、食材に載ったスパイスを楽しむという趣向に変わってきているの
である。


ヨグヤカルタのワルン「ミーレテッ(Mie Lethek)」の店主は、店開きをしてから客の味覚
の傾向を何度も確かめながら定番メニューを編み出した、と語る。
「建物はジャワのオリジナル、食品は田舎風のもの、というコンセプトで事業を始めまし
た。料理はできるだけ自然のもので、あれこれとややこしい味覚にしない方針で。タピオ
カ麺の味については何回かトライして味を安定させ、客の反応を伺い、失敗を重ねたあげ
く、結局、ニンニクとククイを使うことになりました。ええ、最近はスパイス感の薄いも
のはあまり相手にしてもらえないですよ。」

ククイの実から油を抽出するのに、いきなりすりつぶす方法は採らない。一旦乾煎りして
油が十分出たところですりつぶす。この方法でスパイス感が顕著に強まる。[ 続く ]