「ギリマヌッの旅(後)」(2018年08月23日)

ギリマヌッで忘れてならない郷土料理はアヤムブトゥトゥ(Ayam Betutu)ギリマヌッだ。
バリの郷土料理アヤムブトゥトゥはデンパサルやギアニャルなどバリ島中部地区が代表格
になっているが、1970年代終わりごろ、ギリマヌッ独特のアヤムブトゥトゥをムン・
トゥンプ(Men Tempeh)さんが開発し、ギリマヌッ版アヤムブトゥトゥとして名声を博し
た。

1978年にギリマヌッバスターミナルで売り出されたアヤムブトゥトゥギリマヌッは最
初バス運転手や車掌たちの人気メニューになり、徐々に旅人たちの間にも広まって行った。

現在のギリマヌッバスターミナルはフェリー港のすぐ脇に移っているが、旧バスターミナ
ルのあったエリアにはおよそ8軒のワルンがあってギリマヌッ版アヤムブトゥトゥを供し
てくれるから、バニュワギからバリ海峡を渡って来る場合は多少の空腹を我慢してアヤム
ブトゥトゥギリマヌッを賞味するのも悪くない。

もちろん、ギリマヌッからジュンブラナ県の首府ヌガラ(Negara)までの街道沿いやヌガラ
市内、そしてデンパサルの町中にもアヤムブトゥトゥギリマヌッを食べさせてくれる店は
たくさんあるから、チャンスはそこにしかないわけでは決してないのだが。


毎年7月から8月にかけて、ヌガラではムクプン(mekepung)と呼ばれる水牛レースで賑
わう。このレースは二頭の水牛にジョッキーが乗る一台の車を引かせて速さを競うもので、
マドゥラ島のカラパンサピとはまた趣の異なるものだ。

農村の道や水田で催されるこのレースには、祭の賑わいが付随する。地域のレース参加者
が東西に分かれて各組が勝敗を競うのである。

バリ島西部地区の人情は中部地区よりもハードでワイルドだと地元のひとびとは言う。食
事の味付けは辛く、ムクプンが示すようなエネルギーを荒事で消費するのを好む。そして
西のジャワ島から入って来る文化に対する受容性も中部地区より高い。

バリ島全域がヒンドゥ教の一枚岩だと想像している外国人も少なくないのだが、西バリ地
方を旅すればモスクの多さやバリ島の大自然の上を流れるアザーンの声がそんな外国人の
認識に衝撃をもたらすに違いない。それがジュンブラナ県を特徴付けているハイブリッド
文化なのである。[ 完 ]