「不倫罪(後)」(2018年08月24日)

そこにまったく見知らぬ男がふたりオートバイに乗って近付いてきた。そしてひとりがオ
ートバイから降りると、いきなりBを非難し始めた。「おまえは妻がいるというのに、ど
うして家の外で別の女とこんなことをしているんだ?おまえらふたりを警察に訴えてやる
ぞ。」

その男がBをヘルメットの上から殴ったから、恐怖がふたりを包んだ。Mは怖くなってオ
ートバイから飛び降り、その場から走って逃げた。Bに護ってもらおうとしなかったのは、
見知らぬ男の言葉に影響されたからだろうか。インドネシア人犯罪者のこの種の手口は実
に心理学の奥義をきわめている感がある。事実関係など知らなくとも、芝居ひとつで他人
の心理に強いインパクトを与える言動を操る技は、残念ながら犯罪者ほど優れているのが
インドネシア社会であるようだ。オートバイを運転していた男は即座にMを追いかけた。

気が動転したBは、自分のオートバイをそのまま置き去りにしてMの後を追った。しかし
オートバイの方が速いのは明らかだ。オートバイはMに追いつくと、Mを無理やり後部座
席に乗せて走り去った。なんともできなかったBは仕方なく元の場所に戻って来たが、自
分のオートバイまでもが姿を消していた。Mの後を追ったとき、エンジンキーを抜くのを
忘れてしまっていたのだ。恋人とオートバイを同時に盗まれたBは、その足で警察に届け
出た。


一方のMは犯罪者の自宅であるクラパガディンのカンプンラワセゴンの借家に連れ込まれ
てレープされた。「言うことを聞かなければ警察に突き出すぞ。不倫行為の罪でおまえは
監獄行きだ。」という言葉に脅かされてのことだったが、そのうちにもうひとりの男がB
のオートバイでその家にやってきて、レープは輪姦になった。

北ジャカルタ市警クラパガディン署はBの届け出に即応し、すぐに捜査が開始されて、ふ
たりは別々の場所で24時間内に逮捕された。ひとりは屋根に上がって逃げようとしたが、
捜査員の鉛玉をくらって動けなくなった。

警察の調べでは、このふたりは前科者で、ひとりは殺人罪、もうひとりは凶器携帯で入獄
し、娑婆に戻ったのも比較的最近で、両人が知り合ってからまだ間もなかったとのことだ。
Mとの関係がBにとって本当に不倫だったのかどうかについて、警察は一切触れていない。
それはどうであれ、Mが不倫罪とまったく関係がないのは明らかだ。

最近、インドネシアにおける売春の法的解釈が取り沙汰されているが、条文の解釈でなく
又聞きが情報源になっている話ばかりが目に付くように思われる。法的にどうなのかにつ
いては「インドネシアの売春」
 http://indojoho.ciao.jp/koreg/klacu.html 
に解説してあるので、ご参照いただきたいものである。
もっとも、実質の理解よりもセンセーションを求めるマスコミに踊らされる傾向のまとわ
りついている文化のひとびとは、Mの愚かさを笑えないにちがいないのだが。[ 完 ]