「南往き街道(54)」(2018年08月28日) 海抜950メートルに位置するシトゥグヌンは気温が28℃以下で、夜は16℃まで冷え 込む。シトゥはスンダ語で池や沼を意味する言葉だ。総面積6Haのシトゥグヌンは文字 通り山の池なのである。この行楽地は森林公社プルフタニのスカブミ支社が運営するもの で、会議場のある宿泊施設やテントを貸し出してくれるキャンプ場、アウトバウンド設備 やジョギングあるいは森林ウオークもあって、山と森を満喫できる場所になっている。お まけに周辺にはいくつも大きな滝があって、山の愉しみを更に盛り上げてくれる。 この山の池は人造のものであり、天然の池ではないという話になっている。池は年に一回、 祭事が催されたあとで水の総ざらえが行われる。堰を切ると、水面は予想外の速さで下降 して行き、底が現れる。確かに削られたあとが見られることから、人造の池であることは 確認されている。ところが、その水底に転がっている魚が一尾もいないのだ、と土地の人 は語る。水がある時には池に確かに魚が泳いているのが見えるし、釣りをすれば10キロ を超える大物がかかることもあるというのに、だ。そして再び水を満たし始めれば、水源 は周囲にある数カ所の湧水だけだというのに、また意外な速さで水面が上昇して行くそう だ。 この池の由緒来歴については、こんなストーリーが語られている。 昔マタラム王国とオランダ人の戦争が激しくなり、王都が脅かされるようになったとき、 王族や領民があちこちへ逃亡した。ランガ・ジャガッ・シャハダナ(Rangga Jagad Syaha- dana)もそのひとりだった。かれは最初から反オランダの旗幟を鮮明にしていたため、オ ランダ側はかれを捕らえて処刑しようと考えていた。 マタラムの王都を脱出したシャハダナはバンテンに保護を求め、バンテンを最終目的地に してマタラム王国領の西ジャワに入った。クニガン(Kuningan)に滞在しているとき、かれ はクニガンの女を妻にした。そこから、妻を連れての旅が始まった。プリアガン地方に入 り、ウクルの地を経てチアンジュルに至る。しかしチアンジュル〜スカブミのルートもバ イテンゾルフにつながるプンチャッ街道をも通るわけに行かない。オランダ人の勢力下に あるそれらのルートを通れば、いつどこでオランダの官憲に誰何されるかわからないのだ。 シャハダナ一行はグデ山の山腹に分け入った。難渋しながら道なき道をたどってかなりの 山中に入ったころ、身重になっていた妻が旅を続けられなくなったため、庵を構えた。 [ 続く ]