「選挙年は贋札年」(2018年10月01日)

東ボゴール地区の住民からボゴール市警東署に通報が届いた。ニセ札の売込みがあったと
いう情報だ。警察はさっそくおとり捜査を開始した。おとり捜査員が売込み人にコンタク
トする。

売込み人の売り文句は「造幣公社で作られた不合格クオリティのものだから絶対にバレな
い。どこのATMに入れてもすんなり通る。」というもので、真札一枚につきこの札を二
枚と交換するから、まず銀行送金してくれれば、その入金額を確認してそれに応じたニセ
札を渡すと言う。おとり捜査員は交渉を開始する。「そりゃあ高すぎる。真札一枚でニセ
札は十枚だ。」

相手は「ホンモノと同じなのだから、一対ニは崩せない」と突っぱねる。「そりゃあ見せ
てもらわなきゃわからんぜ。銀行送金はしない。物を見た上で現金取引だ。」ということ
で話が進み、ランデブーの計画が組まれた。

ところがランデブー計画は再三再四変更された。犯人側の用心深さを示す一例にちがいな
い。最終的に取引場所はチアンジュル県パチェッになった。プンチャッ峠を越えた下り道
だ。時間は9月19日の深夜。準備万端整えた警察は、取引場所の駐車場で買い手が来る
のを待っていた4人の男たちのうち3人を逮捕し、かれらが車内に積んでいた大量のニセ
札を押収した。ひとりは現場から逃走した。

警察が押収したのは10万ルピア紙幣が1千8百枚と、1米ドル紙幣50枚が印刷されて
いる未裁断シート1枚。10万ルピア紙幣は旧デザインのものだけでなく新デザインのも
のもあり、しかも出来はきわめて精巧であって普通の人間にはまず見分けがつかない。造
幣公社の不良品が流出している可能性を本当に想像させるような仕上がりだ。

警察が逮捕したのはチアンジュル県住民の48歳の男、ボゴール県住民48歳の男、スカ
ブミ県住民の49歳の男で、かれらはボゴール・スカブミ・チアンジュル一帯でその精巧
な贋札を売りさばこうとしていたらしい。


インドネシアは5年に一度の総選挙や大統領選挙の時期に贋札流通量が急増する。いかに
国民の投票権に現金がまとわりついているかを示すバロメータだ。もちろん選挙のない年
に贋札が姿を消すこともあり得ないのだが、流通量の差は圧倒的と言えるだろう。

ある政治評論家はその現象について、マネーポリテイクスに使われる現金需要の一部が贋
札でまかなわれているのは事実だ、と語った。有権者に現金をバラまいて票を金で買うこ
とで、得票数が三倍増するという話は選挙運動に関わっている連中の常識になっている。

立候補者の選挙運動チームが互いにそれをやり合うのだから、最終的に金額の大きい側が
優勢になるという資本主義原理がここにも顔をのぞかせる。贋札は選挙運動リーダーにと
って、同じコストでばらまき効果を膨らませる便利な素材となるわけだ。

その一方で、こんな手も使われる。対立する立候補者の名前で贋札をバラまくのである。
選挙民の間で「あの候補者が配った金はニセ札だぜ。」という声があがってくれば上出来
で、たとえそうならなかったとしても適宜噂を流せば同じことだ。真贋鑑定すれば、本来
が贋札なのだから、真相が顕れて「あの候補者」が恨みを買うことになる。造幣公社の不
良品もどき贋札はどちらに使われるだろうか?